第12章 農業生活十二日目
閉店時間なのに、わざわざ来てやったんだから何か出せと言う。呆れ顔すらなく、拒否一択のカミル。またしても、激高する双子。そして、運悪く私の存在がバレてしまった。
怖い顔をして私の方へと近づいてきた。怯む私の目の前に、リヒトが立ち塞がった。私からリヒトの表情は見えない。でも、喚いていた声は静かになった。
直ぐに喧噪になったけど・・・。逞しいわ・・・二人だから強気なんだろか?
「お前達、出禁にする。」
抑揚のない声で、そう言ったリヒト。そのことに怒り出した双子だったけれど、またしても手が出たらしく・・・。ただ、今回は鈍い音はしなかった。どうやら、双子の腕を掴んでいる様だ。
「この前は叩かれてあげたけど、これからは遠慮させて貰う。心優しい僕の婚約者を泣かせてしまうからね。だから、二度とここには来るな。カミル、ドア開けて。」
開かれたドアを擦り抜け、そのまま外へと出て行った。
「莉亜さんは、行かない方がいいですよ。」
「うん・・・。」
リヒトは最後まで、自分自身がどう思うという事を言わなかった。婚約者が泣くから・・・。婚約者を泣かせたくないというのが理由。
そして、私は知らない。リヒトが無表情で、双子に言っている言葉を。完膚なきまでに冷たい対応をしたリヒトに、双子は私のせいだと騒いだけれど・・・次の言葉で、黙り込んでしまった。
ーーー僕を好きだと言うけれど、他の男に股を開いて、たくさん気持ちよくしてもらったんでしょ?ーーー
リヒトが少しして戻って来た。店を閉め、私の手を引いて歩き出した。帰ろうと言ったきり、何も話そうとしない。
敷地内に入った時、私は足を止めた。咄嗟に手が離れそうになったけれど、リヒトはしっかりと繋ぎなおしては私を見た。
その行動だけで、十分だと思った。リヒトは手すら離れることを拒んだのだから。
「莉亜?」
「楽しみだね、明日。」
ん?私、今・・・楽しみって言った?言ったよね?だって、リヒトの目が凄く見開かれているから。失敗した・・・。もうっ、寄りによって楽しみって何?もっと他にいい方あったんじゃないの?
もう、リヒトの顔が見られない・・・。穴があったら入りたい。もう、底に埋まって蓋して欲しいくらい。