第12章 農業生活十二日目
「僕が相手だから、そう思うの?」
「えっ?」
「僕が欲しい?」
私は力強く頷いた。今は、そうした方がいいと思ったから。そう思ったのだけど、顔は見る見るうちに真っ赤に染まっていく。恥ずかし過ぎて、リヒトの顔が見られない。
「あっ、リヒト!?」
腕毎引っ張られ、腕の中に閉じ込められる。そして、外に目を向けた。私もつられて目を向けたけれど、そこには誰もいなかったし何もなかった。
リヒトの顔を見上げれば、視線が合わさった。顔が近付いてくると、触れた感触があったのは額だった。
「・・・期待した?また、後でしてあげるから。さ、家に入ろう。」
私たちが家に入った後、茂みから人が現れた。そこにいたのは、紛れもなくルディだった。
憎々しげな眼差しと、歯ぎしりの音。だが、直ぐに踵を返してどこかへ消えていった。
リヒトside
僕たちを見ていたのは、ルディだ。薄暗い中だったけれど、注がれていた鋭い目つきは、僕へと向けられたもの。
幸いにも莉亜は気付かなかった。一度は諦めたのに、僕が現れた事によって惜しくなったのだろう。そんなのは虫が良すぎる。
莉亜の事は、始めは確かに同情だった。でも、今では僕自身が持て余すほど彼女に溺れてる。彼女は僕を裏切らないと自負している。あの正直者の彼女なら、その時が来たらそれ浮気ではなく本気。
だから、そうならないように・・・僕しか見えないようにするつもりだ。彼女といる時だけが、きっと人としていられる時間なのだと思うから・・・甘い鎖で雁字搦めにしよう。
彼女以外、何もいらないと思うあたり、僕の執着も大概だろう。彼女を失うことになったら、この世に未練なんてない。
彼女の声が僕の名を呼ぶ。それだけで、僕がどれだけ僕で良かったと思えるか。
「リヒト、おやすみ。」
「おやすみ、莉亜。」
彼女の髪を撫で、深く口付ける。そして、僕の腕の中に閉じ込めて僕たちは目を閉じた。