第11章 農業生活十一日目
「勿論だよ。私がリヒトを幸せにする。だから大船に乗っていいから。リヒトのこと大好きだから・・・何処にも行かないで。」
リヒトの蜂蜜色の瞳に、色が戻った。
「ごめんね・・・泣かせてしまって。うん、僕は何処にも行かない。男前なこと言われて逆にカッコ悪いけど・・・僕も莉亜が好きだよ。」
傍に居てと言ったリヒトの方が、何処かに行ってしまいそうで私は思わず口にした言葉だった。
「リヒトはいつもカッコイイよ。」
「ありがとう。」
この時になって、少しだけ笑うリヒトがいた。
「それにしても、リヒトの顔をこんなにするなんて。」
「えっ?莉亜?」
「絶対に許さないんだから。次に会ったら・・・。」
リヒトの手が頭を撫でる。
「双子は狂暴だから、莉亜は何もしちゃダメ。莉亜が怪我する様な事になったら・・・僕は何をするか分からないよ。大丈夫だよ、次は僕も容赦しないことにするから。」
えっと・・・何か、リヒトの笑顔が怖い。
「リヒトさん、オーダー入りました。」
通常運転のカミル。リヒトは苦笑いして、厨房に戻った。この後、私は厨房の片隅で大人しく調理をするリヒトを見ていた。まだ、顔は赤くなっているけど、真剣な姿もカッコイイ。
それに、リヒトが作る料理はどれも美味しい。それを、叩き落とすなんて・・・。そんな人がリヒトに言い寄るなんて。
「烏滸がましいのよね。」
ボソッと呟いた私を、二人が見た。
「どうかしたの?」
「莉亜・・・ううん、何でもない。あ、ハム持って来てくれたんだね。今日の賄いはハムカツがいいかな。莉亜も食べていって。」
破顔する私に、リヒトはニッコリと笑う。そして、カミルも少しだけ口元が緩んでいた。その後は、何のハプニングもなくお店は終了。三人で賄いに舌鼓み。
食べるだけ食べた後、フト、思い出した。今日、帰ったら・・・。リヒト、忘れてないかな?あんなことあったし・・・。って、片付けしているリヒトの手際がいつもより早い。
絶対、忘れていない気がする・・・。
どうしよう・・・。いや、どうもしないけど。絶対、リヒトに溺れそうな気がする。あの色気駄々洩れの瞳を見ただけで、もう無理な気がする。
あれ?私だけ、焦ってる?リヒトは・・・いつもと変わらない。それはそれで、何か期待している様で恥ずかしい。
ん?