第11章 農業生活十一日目
窓の外に、こちらを見ている目があった。思わず、声を上げると逃げる足音が聞こえた。
「莉亜、どうかしたの?」
「だ、誰かがこっちを見てた。」
リヒトがドアを開けたけれど、誰もいなかった様だ。リヒトが戻ってきて、私の手を握り締めた。その時になって、私は自分が震えていることに気付いた。
「大丈夫だよ、僕が傍にいるから。」
「うん。」
「誰だったか分かる?」
リヒトの問いに、私は顔を横に振った。でも、明確にあの目は私を見ていた。店を閉めては、リヒトと共に家路につく。
「莉亜、不安なら一緒にお風呂に入る?」
えっと・・・何で、爽やかにそんなこと言えるの?
「そ、それは・・・ちょっと・・・まだ、心の準備が。」
「残念。」
あっさりと引き下がってくれたことにホッとする。いや、でも・・・その後は・・・。一人で赤くなったり青くなったりと忙しくしていると、リヒトが笑い出した。
「ごめん・・・昨日、あんなこと言ったけど、今日は我慢する。」
「えっ?」
「期待させちゃった?でも・・・こんな気持ちで、大事な莉亜を手籠めにしたくないから。」
えっ・・・手籠めって何?殊勝なこと言ってる様に聞こえるけど、何かちょっと違う気がするのだけど。
結局、リヒトは何もしなかった。双子の事で、何か思うことがあったのだろう。ちょっとだけ、残念な気がしないでもないけど・・・あんな風に言ってくれたリヒトの意見を尊重しようと思う。
でも、双子・・・怒って帰った様だけど、また来るのかな?一度くらいの拒否で、諦めないような気がする。自身のやったことは、棚に上げそうだし。
それに、さっきの目・・・。
「気にしてるの?」
どっちとは言わないけど、ご明察だ。
「大丈夫だよ。僕がいる。あ、それとも・・・。」
「お、おやすみなさい。」
リヒトに抱き付き、目を閉じる。体が揺れ、笑っているのだと分かった。本当に油断も隙も無い。
「おやすみ、莉亜。」
頭にキスされ、私を抱き入れるリヒトの腕。
うん、安心して・・・安心?うん、安心して寝られる・・・よね?