第11章 農業生活十一日目
内容は店を手伝ってあげるから、デートをしろと注文していた。そして、もう一つは私のこと。あんな余所者とは別れて、私たちのどちらかと付き合えと言っている。
どちらか・・・本当に、どちらかを選んだら、選ばれなかった方はどうするんだろう?納得するのだろうか?
一先ず、店内に入りカミルにハムを渡した。
「大丈夫?カミルくん。」
「ええ。前にも同じ事があったので。」
強い子だ。カミルは厨房に私を引き入れてくれた。そして、洗い物を始める。口数が少ないけれど、リヒトのことを案じているのは分かる。
「莉亜さんが、あんな人たちみたいじゃなくて良かったです。」
「えっ?あんなって・・・。でも、リヒト・・・大丈夫かな。」
「嫉妬なんて無駄だし、必要なんてありません。」
そういう心配はしていないけど・・・。でも、いい気はしない。カミルの隣りで、洗われた食器を拭いていく。
「前のお店の時、勝手に厨房に入って来てリヒトさんに声かけまくってて。挙句の果てには、出来上がった料理を叩き落とされたことがあったんです。リヒトさんが相手しないから怒り出して。」
そんなことしておいて、厨房に入れろって言ったの?そりゃあ、入れたくなんかないよね。今は、店を手伝うから付き合えって・・・。
「折角、作った料理を無駄にされたんだね。リヒトは何って?」
「何も。元々、興味ないですし。」
だから余計に、苛立ったのかな。ん?裏から甲高い声と、鈍い音が聞こえてきた。
「カ、カミルくん・・・。」
「俺が様子を見てきます。」
裏口のドアを開け覗いた瞬間、珍しく、驚いた顔をしたカミル。あまりにも気になって、そっと覗いてみた。
そこにいたのは、両頬を真っ赤に腫らしたリヒトがいた。双子の姿は無かった。私はタオルを冷やして、ドアを押し開けてリヒトに近付き頬に当てた。
「大丈夫・・・大丈夫だから。」
リヒトの表情は無かった。痛がるでも怒るでも悲しむでもなく・・・。だからと言って、何も思わない訳はないと思う。
「リヒト・・・。」
名を呼んだ時、初めて反応を示した。表情は無いけれど、私を抱き締めるリヒト。
「・・・どうして、莉亜が泣くの。」
「分かんない。分かんないけど・・・。」
-------莉亜、僕の傍に居て-------
それは小さな小さな声だった。