第10章 農業生活十日目
玄関へ行くと、ルディが私に気付いた。少し怯んだ顔をしたけれど、何も言わず俯いている。どうしたものかと思案していると、ルドが現れルディを連れて行った。
引きずられていくルディを、私は呆然と見ていた。一体、何事だったんだろう?あ、チャーシュー見に行かなくちゃ。
作業場に行くと、チャーシューのいい香りがしていた。寸胴鍋を覗き込むと、いい具合に色が染み込んでいる。その内の一本を取り上げては、まな板の上に乗せる。
試食タイム!!糸を解き包丁を入れる。すると、断面から溢れ出す肉汁。ヤバい、涎でそう。嫌、もう出てる気がする。一切れ摘み、口に入れる。
「ん~っ!!!」
声にならない美味しさ。リヒトに持って行こうかな。でも、その前に、果実水飲んでおこう。容器にチャーシューを詰めては、籠へと入れた。そして、キッチンで冷たい果実水タイム。
今回は桃とハーブのブレンド。これまた一気飲み。うん、癒されたっ!!さぁ、リヒトのところに行こう。ご機嫌でリヒトのお店までは徒歩7分。
店に到着すれば、夕刻の時間帯になっていて人も変わらず並んでいた。裏口のドアを叩き、リヒトの名を呼ぶとドアが開いた。開けてくれたのはカミルくん。
「差し入れに来たの。出来立てのチャーシュー。まだホカホカだよ。」
「ありがとう、莉亜。あ、いい匂いする。食べさせて?」
調理中のリヒトに近付き、スライスしたチャーシューを口に入れる。直ぐ傍で、生唾を飲むカミルの姿。
「カミルも食べてみなよ。美味しいよ。」
「いいんですか?」
「いいよ。どうぞ、カミルくん。」
ピックに一枚刺して、口に入れるカミル。表情が著しく変わる訳ではないけれど、口元が少し緩んでいる。
「美味い・・・。」
「良かった。じゃあ、洗い物手伝うね。」
「ありがとう。助かるよ。」
リヒトの手から、どんどん美味しそうな料理が出来上がっていく。そして、面白い話を聞かせてくれた。
昨日のバーク村長は、飲みすぎのせいで購入したワインを奥さんに没収されたらしい。泣いていたそうだ。そして、暫くは出禁をいい渡されたらしい。だから、今日のワインは大丈夫とのこと。
今日の営業が終わると、チャーシュー丼を賄い料理にした。卵スープと野菜サラダを食べて休憩。リヒトもカミルも、お替りしていた。今日もお疲れ様。
そして、リヒトと家へと帰る。