第9章 農業生活九日目
厨房で溜まった洗い物をやっている間、リヒトに声を掛けられ口を開けてと言われる。疑問に思いつつも、口を開けると・・・サクサクの白身魚のフライを入れてくれた。
無条件に顔が綻ぶ。その顔を見たリヒトも、嬉しそうだ。カミルがこっちをチラッと見たけれど、無言のまま。何となく・・・そう、何となく羨ましそうな顔をしている様に見えた。
バーク村長が帰ったけれど、ワインは順調に減っていく。それに比例して、カミルが不機嫌そうになっている。どうしたんだろう?
そしてカミルは、お客さん相手でも塩対応だった。特に、若い女の子相手に。見た目がいいから騒がれているけれど、何の反応も示さない。
ひょっとしてリヒト2号?と思うほどだ。まぁ、意地悪するとかそういうのではないから気にしない。
「莉亜、春キャベツの千切り頼める?出来れば、その大きなザルに山盛り。」
「うん、いいよ。」
空いたスペースで、軽快なリズムで千切りキャベツが出来ていく。凄いなぁ・・・今の私。こんなこと出来るんだ。ものの10分ほどで3個のキャベツが千切りされザルは山盛りになった。
「ハムがラストです。」
「えっ、そうか。じゃあ、品切れだって言っておいて。」
ハムがラストって、そこそこ持ってったよね?明日、ケビンが来るから、ハム作ろうかな。それに、チャーシューも作りたい。
閉店までの時間、立ちっぱなしの休憩無しだ。そんな二人に、オレンジとライムとローヤルゼリーを混ぜた果実水を振舞った。二人とも一気飲み。そして深く息を吐いた。リフレッシュ出来たかな?
忙しく手は動かしているリヒトだけど、咄嗟にホッペにキスされた。
「ありがとう。生き返った。」
「俺もです。」
ボソッと囁く様な声が聞こえて、見られていたことに恥ずかしくなる。カミルの方は、気にした素振りは無かったけれど。
やがて、最後のお客さんを見送って終わった。
「カミルも莉亜もお疲れ様。1週間もすれば落ち着くと思うから。莉亜も一緒に夕飯食べてって。賄い作るから。」
出してくれたのは、ローストポーク。全然、賄いじゃないと思う。でも、今日は特別と言ってくれたので皆で舌鼓。生姜と大葉の味が効いていて元気が出た。
片付け後、私たちは帰宅。早々にお風呂に入り、私は倉庫に来ていた。その中にある一本のボトルを取り出した。
「出汁醤油・・・。」