第76章 明白な拒絶
どういう意味だろう?それだけでは終わらないって。
「何か知っているの?」
「親の転勤で、引っ越すって聞いてる。蒼はそのまま一人暮らしだけど、加耶は一緒に行くそうだ。」
えっ、私何も聞いてない。
「最後の悪足掻きをしたかったんだろうな。」
「そうだったんだ・・・。」
「三年は帰って来ないそうだから、安心していい。」
新店舗の役員として抜擢された蒼の父親。正直に言って、少しホッとしてる。今日はアッという間に、理玖に助けられたけど思い返せば怖い出来事だった。
そして、家に戻ると蒼から連絡があった。どうやら、両親と理玖からも加耶のことの連絡があったそうだ。私の安否は理玖から聞いていたそうだけど、心配だったらしい。
「迷惑掛けてごめん。この事で、予定より早めに引っ越すことになったんだ。どうせ、このまま居ても停学になるそうだから。」
「そう。おじさんたちは何って?」
「謝っておいてくれって言われた。それと、引っ越したら教育し直すって言ってた。・・・変われる切っ掛けになるといいなと思う。」
こういうところは、やはり蒼が優しいからだろう。あんなことを言ったけれど、気にはしている。
「そうだね。」
「ところで・・・デートしない?」
蒼からの提案に、私は賛同した。蒼が通う大学は、私たちが通う大学のご近所だ。その中間点にある公園前の時計台で待ち合わせとなった。
講義が終わり次第駆けつけた時計台には、既に蒼の姿が確認出来た。そして、その周りには綺麗な女性たちの姿もあった。
蒼が私に気付き、笑顔で手招きしてくれる。それに合わせて、女性たちの視線が私に向けられた。怯む・・・怖い。少し離れた場所で立ち止まった意気地のない私。
「莉緖、講義お疲れ。」
俯く視界に入って来た、蒼の足元。
「あ、蒼・・・。」
何か言おうとしたけれど、その後に続く言葉が何も思い浮かばない。
「ホント、妖精ちゃん本人なんだ~。」
「これで、信じた?」
「「「信じたよ~。」」」
驚きの歓喜の混ざった声が、直ぐ傍で聞こえる。
「長年の片思い相手って、本当に妖精ちゃんだったんだね~。ホント、可愛い~。」
ん?何か、好戦的な雰囲気とは違った様子に戸惑う私。それに、妖精ちゃんって?長年の片思い相手は兎も角として。
「信じたなら、さっさと去って。折角のデートなんだから。」