第76章 明白な拒絶
女性たちは、手をヒラヒラさせてはいなくなった。
「ごめん、デートだってバレてしまって。」
「あ、うん・・・。えっと、妖精ちゃんて?」
「莉緖の異名?二つ名?知らなかった?ここらでは有名だよ?」
「えっ、し、知らないよ?」
理玖なら二つ名くらいありそうだけど。
「理玖は、ホラ・・・氷の貴公子?」
「えっ?本当に?」
「あんまり人前で笑わないし、愛想も良くないからね。でも、人柄はいいヤツだよ。」
だから、人望はあるんだと教えてくれた。理玖はパパに瓜二つだとよく言われている。私はママ似だ。だからこそ、パパからは大事にされていると、パパの幼馴染みのおじさんから言われたっけ。
パパって、ママ大好きだもんなぁ。今でもモテているみたいだけど、パパはいつだってママ至上主義だもん。
「さ、行こうか。映画の時間が始まってしまう。」
蒼に手を引かれ、駅前にある商業施設に向かう。幼い時は同じくらいだった小さな手も、今ではすっぽり私の手を包み込む大きな男性の手になっている。
「さっきは、クラスメイトがごめんね?でも、そういう対象じゃないから。」
「うん・・・。」
蒼の人柄がそうさせているのか、それとも長年の片思い相手がいると公表しているのがストッパーになっているのか分からないけれど、嫌な感じはしなかった。
「おじさんたちは?」
「父さんたちなら、無事に引っ越し先に着いたみたいだよ。加耶は、厳しい全寮制の学校に編入させたって言ってた。」
規則が厳しく、マナーも見に付く学校なのだと教えてくれた。基本、外出は出来ないそうなのでこの町に来ることもないだろうと教えてくれた。
「莉緖と同じ大学に行きたかったなぁ。」
「何言ってるの、蒼は将来お医者さんになりたいんでしょ?」
「まぁね。」
この時になって、私が幼い頃に病気がちだったことが理由で医者になろうと決めたと話してくれた。
「子供心に何も出来ない自分が歯がゆくて・・・だから、いつかの為にと、医者を目指すことにしたんだ。」
「蒼は他に遣りたかったこととかなかったの?」
「この選択に後悔はないよ。自信を持って言える。」
そう言って恥ずかしそうに笑う蒼を見て、私も笑顔になった。そんな頃から、大切に思われていたなんて・・・心が温かくなった。