第73章 春十五日
アオイは昼食を食べながら、病院であった事を話してくれた。
「それってつまり・・・告白されたってこと?」
「まぁ、そうなるね。ぶっ飛んでるのは、彼女の方だと思うけど。それに・・・・・・って言ったんだ。フフ、随分と馬鹿にしてるから相応な反論だよね。」
アオイが笑った。肝心な部分はきっと、キエに囁いた何かなのだろう。怖くて内容は聞けなかった。
「まぁ、この村の出禁は当たり前だろうから問題ないよ。」
「アオイ・・・モテモテだね。」
「あ、妬いてくれた?」
「うん。」
「嬉しいけど、心配する必要はないよ。僕は莉緖のものだからね。」
清々しいまでの笑顔だ。取り敢えず、アオイは怒らせないようにしよう。
昼食後、アオイと共に果樹園へと来た。
「これは・・・随分と実ったなぁ。さくらんぼの重さで枝がしなってる。」
「果物って高価なんだよね。頑張って収穫して、出荷しなくちゃ。あ、チェリー酒も忘れちゃダメだ。じゃあ、アオイお願いね。」
二人で収穫を始めれば、アサドが現れた。野菜の採取に来た様で、さくらんぼの収穫を手伝ってくれた。
ただ、満面笑顔でさくらんぼに話し掛けながら収穫している姿は、ハッキリ言って気持ち悪い。でも、戦力になるので無碍には出来ない。
「アサドさん、楽しそうだな。」
「う、うん。」
それに、とっても作物を大切に扱ってくれる。更に言うと、手際もいい。普段は少しぶっきらぼうな感じなのになぁ。
「あっ、そう言えば、茶葉子を収穫に来たんだった。」
「ちゃばこ?」
「あ、い、今のは聞かなかったことにしてくれ。」
アサドはどうやら、作物に名前を付けているらしい。まぁ、そのどれもが作物の名前+子が付いているだけなのだけど。でも、茶葉子って・・・。
そして、さくらんぼの収穫の目途が付いてから、茶畑にも行ってみた。アサドが先に来ていて、楽しそうに収穫している。そして手早い。
「この茶葉で作ったプリンが好評で、直ぐに完売してしまうんだ。だから、ミランが拗ねてな。あ、手土産に持って来たから食べてくれ。」
「今日のお礼に、さくらんぼを幾つか持って帰って下さい。」
「いいのか?感謝する。さくらんぼか・・・パイなんかいいかもしれないな。」
ああでもないこうでもないと、思考しているアサド。これは微笑ましい。