第73章 春十五日
アサドは小型リヤカーに収穫したものを入れて、帰って行った。他の農家も回るらしい。
「元気だなぁ、アサドさん。」
「そうだね。」
「ちょっと気持ち悪いけど。」
「そうだね。あっ、今のは無しで。」
ついアオイに釣られて同意してしまった。でも、アオイも気持ち悪いって思ってたんだ。
「明後日から、病院を始めるよ。寂しくなったらいつでもおいで。待ってるから。」
「うん、分かった。」
開業できるのは私も嬉しい。
収穫した半分のさくらんぼを出荷箱に入れてから、夕食の準備だ。アオイには、お酒を造る機材にさくらんぼをセットしてもらった。
春野菜を湯搔いたものにドレッシングを掛けたり、炙ったチャーシューを切り分けたりと食卓の色どりが楽しいものになった。
アオイもたくさん食べて、浴室室に連行されて洗われて・・・羞恥の心を無にして耐えた。一緒に湯船に浸かれば、さっきからおしりの辺りに何か固いものが触れている。
「ごめん、条件反射だから。」
私は真っ赤になったまま、頷くことしか出来なかった。
「ねぇ、莉緖。」
「うん?」
「もし・・・もしさ、嫌、やっぱり何でもない。」
何となく聞き返しにくくて、私はそのままスルーした。今のアオイがどんな顔をしてどんな事を考えているかなんて知る由もない。
「今晩・・・僕を食べてくれる?」
それは、縋って来る様な声だった。
「うん、食べてあげる。」
「莉緖・・・。」
アオイがこうまでして、不安に思うのは・・・。だから、私も勇気を出そう。
「い、一回じゃ終わらないかもしれないから、か、覚悟しててね。い、嫌だって泣いても、止めてあげないんだから。」
って、私・・・どうして、こんな時にツンデレ発言?私に寄り掛かってアオイは楽しそうに笑ってるし。
「いいよ、止めなくて。余すことなく全部食べて。」
言葉通りになった夜中は、私たちには大切な時間となった。
(明日も食べて貰おう。莉緖、何って言うかなぁ?今から楽しみだ。)