第70章 春十二日
おじさんがピンク色の長い髪・・・。いや、偏見はいけない。おじさんも好きでピンク色になった訳ではない・・・はず?
「何かご用ですか?」
「お前がこの農園の主か?」
「そうですけど。」
「ここの畑はいい出来栄えだな。どうだ、ワシにこの農園を売らんか?」
全く以って、意味が分からない。ここの畑を誉めてくれたのはいい。だが、何故売らないといけないのだろう。
「お断りします。どうぞ、お引き取りを。」
「言い値で買い取ってやると言ってもか?」
「返答は変わりません。どうぞ、お引き取りを。」
「突然で驚かせたか。まぁいい。気が変わったら、いつでもワシに言え。また来よう。」
頑張って睨んでみたら、ニヤニヤしてから敷地から出て行った。そして、言葉通りにまたやって来そうだ。
ここの畑は、パパが私の為に作ってくれたもの。何故、あんな不躾な人に売らないといけないのよ。ここは私のお城だもの。何が何でも、死守しなくちゃ。
お昼になって、アオイが帰って来た。私はさっきのピンクおじさんの話しをアオイにした。
「たぶん、その人ノルドという人だと思う。ジェイクさんから聞いたよ。ほら、アサドさんたちが提携していたおじいさんの畑を買った人らしいよ。」
「農作業をしそうには見えなかったけれど。」
「従業員を雇って、農作業をさせているらしいよ。」
経営だけをしているそうだ。そして、何故かピンク色好きが高じて、髪色もピンク色にしていると話してくれた。ま、まぁ、好みは人それぞれだ。
「それとだけど、女好きらしくて色々と素行の宜しくない人みたいだから気を付けて。」
あのニヤニヤ顔を思い出して、思わず身震いする私。
「何かされた?」
アオイの声が低い。
「ううん、そういうのじゃないけど。また来るって言ってたの。」
「そう・・・。では、丁重におもてなししないとね。」
おもてなしなんて言っているけれど、意味合いは違う様な気がする。でも、不安だからアオイに傍に居て欲しい。
「不安だから、傍に居てくれる?」
「勿論。可愛い恋人を一人になんてする訳がないよ。」
何か、笑顔が強い?笑顔に圧力を感じる。そんなアオイに手を引かれ、腕の中に抱き入れられる。
「心配しなくていい。僕が傍に居るから。だから安心して。一人にしないから。」
「ありがとう、アオイ。」