第70章 春十二日
今朝は珍しく、私の方が先に目覚めた。変わらず私はアオイに引っ付き、アオイは私を抱き入れてくれて眠っている。規則正しい心音が心地よくて、アオイに擦り寄る。
ん?何か・・・心拍数が上がった気がする?
「おはよう、アオイ。」
返事はない。しかし、私は断言できる。これは狸寝入りだと。
「キスしてくれっ!?」
最後まで言い切る前に、朝から熱烈なキスをされてしまった私。やはり、狸寝入りだった。
「満足してくれた?あぁ、おはよう莉緖。今日も可愛いね。」
キラキラした眩しい笑顔を披露され、怒る気も失せる。
「・・・もう言わない。絶対言わない。」
「じゃあ、その分僕からキスしたいって言うから。」
何で、こんなにもいい笑顔なのだろう。
「ってことで、キスしたい。」
ああぁ、抗えなかった。だって・・・気持ちの籠ったアオイのキスは、とても私を幸せにしてくれるんだもの。
そして、今朝も半裸だったアオイ。
「思った事は伝えないとね。」
何やら妖しい笑顔を浮かべるアオイ。でも、思ったことかぁ・・・。私は伝えられているかな?
「アオイ?」
「うん?」
「唇が腫れちゃうから、程々にね?」
「どんな莉緖も愛らしいから大丈夫だよ。」
言ったけど、伝わらなかった。いつか、私の方からいっそ唇を腫らせるくらいキスを・・・と、考えて慌てて思考を止める。
そういうことじゃない。もう、恥ずかしい・・・。
「莉緖、何考えていたの?」
「えっ?あ、べ、別に何も。」
「僕ならいいよ?唇が腫れるくらいキスしてくれても。」
鋭いアオイの突っ込みに、私はそんなことしないと叫んだ。でも、アオイの腕で優しく抱き締められ、その叫びは収まる。
「名残惜しいけど、そろそろ起きようか。」
結局は、本当に名残惜しいって思わされてしまうんだ。
朝食を済ませ、私は一人で畑に来た。アオイは、病院の状況を見に行くと言って出掛けた。
「あれ・・・もう、芽が出てる。頑張ってくれたんだね。」
スプリングクーラー完備の為、栄養が入った水が撒かれる。朝日が反射してキラキラしている。
「気持ちいいなぁ、今日も。」
そして、人の気配がして振り返った私。振り返った先にいたのは、初対面のピンク色の長い髪を一つに束ねたおじさんだった。