第67章 春九日
「筍?」
まだ、土からほんの少し顔を出したくらいのもの。籠からスコップを出しては、掘ってみた。
「やっぱり、筍。」
「莉緖は筍好き?」
「うん。アオイは?」
「僕も好きだよ。」
想像通りだったけれど、天婦羅の筍が好きらしい。その後も、数本収穫し山菜も何種類か手に入れられてホクホク顔で帰宅した。
家に帰るなり、井戸水で筍と山菜の汚れを流す。アオイも見様見真似で手伝ってくれる。
「・・・この村に戻って来て、本当に良かった。莉緖のおかげで楽しいよ。」
「私も楽しい。」
笑顔でそう言い合う穏やかな時、アオイの顔が近付き頬に触れた柔らかい感触。
「莉緖・・・真っ赤になり過ぎ。まだ、ホッペにキスしただけだよ?」
「だ、だって・・・。」
「フフ、可愛いなぁ。唇には、近い内にってことで中に入ろうか。」
何か、サラリと恥ずかしいことを言われた気がする。
そして、今日の夕食も昨晩同様に天婦羅になった。アオイは余程好きらしく、箸が進んでいる様だった。
「今日も、覗き見されるかなぁ?」
突然、何気なく呟いたアオイの言葉に私は咽た。
「大丈夫?はい、お水。」
喉を水で流せば、楽になった。
「い、今のセリフ、まるで期待している様に聞こえるけど?」
「心外だなぁ。僕は見られて喜ぶ性癖はないよ。ただ、誉めてくれたから。」
「誉める?何を?」
「男性器。」
今度は、盛大に吹き出した。
「あ、ごめん。莉緖には刺激が強かった?」
「・・・本当に、見られて喜ぶ性癖はないの?」
「う~ん、そうだなぁ。莉緖に思われるのは嬉しいかも。」
私は唖然。何ってことを言うんだ。こんないい笑顔で。
「大丈夫だよ?僕は無理強いで女性に無体を働く趣味はないから。ちゃんと莉緖が僕に堕ちてくるまで待つから。堕ちてくれたら、もっと深く愛してあげる。」
突然、熱を込めた眼差しに私は真っ赤になった。
「今度は余所見されない様にしないといけないしね。全力で口説くことにするよ。覚悟してて?」
同じ轍を踏まないと言われた。
「今日は、どっちが先にお風呂に入る?僕は一緒でもいいけどね。」
「っ!!?さ、先に一人で入って来てくれる?」
「分かったよ。じゃあ、一緒に入るのはまた今度で。」
何でも無い様に、アオイは浴室へと消えていった。