第67章 春九日
流石に、今晩はノルドは現れなかったらしい。静かに浴室から出て来たアオイ。入れ替わりで私が入る。流石に、窓を開けっぱなしで入ったりはしない。
そして、今日アオイから言われた言葉を思い返していた。
色々と刺激的な言葉を言われるけれど、セトとは違って私に無理強いはしない。思いやりがあって優しいし、今までやらなかったことを覚えようと一緒にやろうとしてくれる。
ただ、今までどんな生活をしていたのか気にはなるところだけど。食は、街ならどこででも簡単に手に入るし食べられる。
それはそうと、病院の方はどうなっているのだろう?アオイは何でもないように言っていたけれど、傷つかないわけじゃないはず。
フト、窓を見て赤い色が見えた気がして息を飲んだけれど、それが見間違いだと分かってホッとした。
それなりに、覗き見されたのはトラウマになっていたのかもしれない。許すまじ。
それに、確かにアオイの身体は・・・ダメだ、逆上せそう。
慌てて湯船から出ては、アオイの元に戻った。
アオイはソファーでボンヤリとしていた。
「アオイ?」
「あ、莉緖。ん?随分、顔が赤い様に見えるけど。」
「そ、そうかな?アオイの方こそ、大丈夫?」
「僕?心配してくれるんだね。ありがとう。でも、思ったより平気。きっと、莉緖が傍にいるからだな。おいで、莉緖。」
両手を差し伸べたアオイ。おずおずと近づけば、腕を掴まれて膝の上に座らされ優しく抱き締められた。
「逃げないで?ただ、こうして抱き締めるだけだから。」
何となく、アオイの心の内面が見えた気がした。アオイのことは嫌じゃない。ただ恥ずかしいだけだ。ゆっくりとアオイの身体に腕を回して抱き締め返した。
ホッと、小さく安堵の息を吐いたアオイ。今の私にはこんなことが精一杯だ。でも、アオイはそれで十分だと思ってくれた様だった。
暫くして、腕が解放された。一緒に寝室に行っては、ベッドに横になった。
「おやすみ、莉緖。」
「おやすみなさい。」
今日も、半分に分かれて就寝だ。
翌朝は、どう目覚めるのだろう?あ、因みに今のアオイは下着姿ではない。