第1章 農業生活初日
試食用だからと、籠から三房ほどケビンに渡した。宝物かの様に大事に仕舞いこみ、お金を払おうとした。
いやいや、試食用だって言ったよね。お金は必要ないと言えば、何度もお礼を言って帰ろうとした。なので、呼び止める。
「何か、用があったんじゃ?」
ケビンは、恥ずかしそうな顔をして馬車から降りてきた。
「すまん。すっかり浮かれてた。」
だろうね・・・。
「元々、こっちの出身なんだが、今は街で料理人やっている奴がいるんだ。街で莉亜の野菜を食べる機会があったらしくて、その時に野菜に惚れ込んだ様なんだ。それで、莉亜に会いたいと俺に頼んできた。」
街で野菜と言えば、ゲームの最後のクエストで出荷した野菜の事だろうと思われる。
あの時には、畑や作物のレベルはMAXだった。だから、賞も取ってゲームが終わったんだ。
「嫌なら、無理強いはしないが。」
拒否しても、別の方法で出会わされそうだなぁ。
「いいですよ。会うだけなら。」
「そうか。宿屋でいるんだが、呼んできてもいいか?」
「分かりました。」
宿屋はこの村の入り口に立っている建物。私の家の真逆の立地だ。ケビンを見送り、一先ず家の中に入った。
そして、冷蔵庫を物色。ゲームでは、採取したものを詰めるだけ詰め込んだ冷蔵庫と冷凍庫。倉庫には、種などもある。
冷蔵庫に入っていたクラッカーとジャム、そして採取したハーブから作ったハーブティーを用意した。
おもてなしの心だ。
家の玄関横には、オープンテラスがある。そこでお茶の用意をしていると、馬車の音が聞こえてきてケビンが現れた。
馬車から降りてきた若い男性を見て、ゲームのキャラを思い出していた。新キャラとして、前と作りのレベルが違い過ぎる。
水色のサラサラロングヘアーを緩く三つ編みし、甘さを含めた蜂蜜色の瞳をして長身のイケメン。
「莉亜、待たせたな。こいつは、リヒト。よろしくな。」
「初めまして。リヒトです。」
声もイケメンだった。
「莉亜です。どうぞ、こちらにお掛け下さい。」
ケビンも同席する様だ。
「いい香りですね。莉亜さんの、お手製ですか?」
ゲーム内だけどね。
「はい。こちらはクラッカーとジャムです。お口に合うか分かりませんが、召し上がってみてください。」
ジャムは、マーマレードとレモンの二種類だ。ちょっと、ドキドキする。