第1章 農業生活初日
悲しいよりも、怒りの方が強かった。そして、友人のやっかみの発端がくだらな過ぎて、早々に縁を切った。
友人は彼女だけじゃない。何だよ、学校一のイケメンと仲良くしていたのが気に入らないって。
同じクラスだし、日常会話くらいするわ!!そう思ったものだ。まぁ、その苛立ちからゲームに没頭してレベルMAXで、クリアしたんだけど。
「さて、何しようかな・・・。」
温室の中を回りながら、植えられているものを観察。
「サクランボ?」
一房もぎ取り、口に入れてみた。
「何これ・・・超美味しいっ!!」
入口にあったカゴを持ってきて、幾つか採取。
ほくほくとして温室を出た時、家の玄関前に人影を見つけた。
あれは確か・・・配達人のケビン?会話って出来るの?ゲームなら、決まった言葉しか発しないんだけど。
私に気付いたケビンがこっちに向かってきた。ちょっと身構えてしまう。初めての対話だ。
「莉亜、こっちにいたのか。」
「お、おはようございます。」
「おはよう。今日は頼みがあって・・・サクランボ。」
物凄い目で見てる。ケビンの好物は確か・・・果物。強面なのに、意外に甘党なおじさん。
「召し上がります?」
「それは悪い。そのサクランボ、高価だからなぁ。」
えっ、そうなの?私、気軽に食べちゃったよ。怒られる?誰に?取り乱したけど、私が生産者だった。正確には、ゲーム内の私だけど。
でも、そう言いながら、ケビンはサクランボを凝視している。思わず吹き出しそうになった。
「ケビンさん、一緒に食べませんか?試食ですよ、試食。」
「そ、そうか。そこまで莉亜が言うならいただこう。」
大きなゴツゴツした手が、可愛らしいサクランボを摘み口の中に入れた。
あ・・・物凄い顔してる。顔が蕩けてる。大丈夫だろか、このおじさん。ごめん、失礼なこと言った。
「どうですか?」
「美味いに決まってるだろ。何なんだよ、何でこんなに瑞々しくて甘いんだよ。」
何か、葛藤している?
「よし、決めた!」
「何をですか?」
「サクランボ、俺にも買わせてくれ。」
丸で、清水の舞台から飛び降りる決断をしたかの様な台詞。あ、今更ながら、会話出来てる。
「え、買うんですか?」
私の問い掛けに、ケビンが泣きそうな顔した。
「もう・・・買い手は決まっているのか?」