第66章 春八日
「どうして、セトを責めなかったのかと思ってる?」
「・・・はい。」
「僕の元カノも同じだったんだ。セトに直ぐに捨てられた。でもね、僕を責めるんだよ。僕がセトの自尊心を傷付けたからだってね。」
どうして、アオイが自尊心を傷付けたことになるのだろう?
「フフ、莉緖は思ったことが顔に出やすいね。あぁ、自尊心のことだけど、どうやらセトの初恋の女性を僕はフッたらしいんだ。」
「でも、それは彼女がいたからでは?」
「そうだよ。でも、元カノは僕を責めた。その事で、僕の気持ちが折れたんだ。」
もし、その時に元サヤに戻りたいと言われてたら戻ってたくらいに彼女のことが・・・。
「その話しには、まだ続きがあって・・・三日後、僕に復縁の要請をしてきたんだ。でも、僕はもう元カノがまともな人間には思えなかった。」
「もう、恋愛はこりごりとか?」
「結果は兎も角、悪い思い出ばかりじゃなかったから・・・ただ、次はちゃんと見極めたいって思ってる。って、どうして莉緖が泣くの?」
分からない。でも、何でもない様に話してくれた内容とは相応しくない、穏やかな表情だったから。本心はどうなのか私には想像する事しか出来ない。
「莉緖は、本当に周りに大事にされてきたんだね。元カノが莉緖みたいだったら・・・っ・・・ごめん。」
一筋だけ零れた涙。きっと、誰にも言わずに一人で抱えてきてたんだと思った。
「私はアオイさんに、元気を貰いました。今度は、私が恩返しをします。」
「情けないところを見せてしまったね。恩返しか・・・そうだね。お願いしようかな。折角、可愛い女の子にこうまで言って貰えたんだし。」
「任せて下さい!!」
ドンッと、自分で胸を叩いて強く叩き過ぎて咽てしまった。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です。と、兎に角、ウチに来てください。」
「ありがとう。」
家に戻ったものの、何もかもが目新しいアオイは目を輝かせてあちこちを見回っていた。
「・・・よく、セトに襲われなかったね。」
「・・・・・・。」
「たぶん・・・になりかけていたのは本当だったのかも。」
「えっ?」
アオイはニッコリを笑うだけで、それ以上は何も言わなかった。代わりに、私の頭を撫でる。
「あ、ちょっと出掛けて来るよ。莉緖も一緒に行く?」