第66章 春八日
「アオイ先生、そんな罰でいいのかい?」
「えぇ、十分です。ただ・・・僕の住む場所を考え直さなければならなくなりました。昨日の話しでは、宿屋は満室だと聞いていますから。」
「ウチの倅が結婚してなければ、暫くの間なら泊める部屋があったんだが・・・。あ、莉緖はどうだ?部屋余ってんだろ?」
確かに、部屋なら余ってる。でも、ついさっき危機感を持った方がいいと言われたばかりだ。
簡単に信じたばかりに、あんな手痛い思いをさせられてしまったんだ。今も、心が痛い。
パパが作った世界だから、簡単に信じてしまってた。これが、パパからの娘に対する愛ゆえの体験イベントだったのかどうかは分からない。
現実でこんなことをされたら、人間不信に陥っていただろうと思う。だって、私に免疫がないんだもの。現実では、無条件に味方になってくれていた甘やかしてくれる人が直ぐ傍にいてくれた。
でも・・・今は、一人だ。
「アオイ先生に世話になったんだろう?病院が元に戻るまでなんだし、俺としてもアオイ先生が傍にいてくれる方が安心するというか・・・。」
「どういうことですか?」
アオイの質問に、息子の事を話したシアン。アオイは私の頭を撫でてきた。
「何と言っていいか・・・苦労したんですね。確かに、無理強いの結婚で解決されるとは思えません。それに、見ていて危なっかしいから、余計に庇護欲をそそられると言いますか。」
可哀想な子扱いされている。
「あ、いけね。配達の途中だったんだ。じゃあ、莉緖、アオイ先生を頼んだぞ!!」
そう言っては、そそくさといなくなってしまった。シアンにアオイをよろしくされてしまった。
「一つ、聞いて貰っていいかな?」
「何ですか?」
「セトが話していたらしいんだけど、彼女に浮気されていた話し、あれは僕の事なんだ。」
きっと、今の私は目が真ん丸になっていると思う。
「もう一声言うと、浮気相手はセト。」
「えっと、何処までが事実で・・・あの・・・。」
「五年弱付き合っていたのは事実だよ。来年くらいに、プロポーズしようと思ってた。まぁ、安定の僕より刺激のあるセトを選んだみたいだけどね。」
セトと対峙していた時、その事は何も言わなかったアオイ。本当なら、恨み言の一つでも言ってもいいと思うのに。