第66章 春八日
朝、私は寝室ではない場所で目覚めた。そして、隣りには何故か本物のアオイがいる。若草色のサラサラの髪を緩く束ね、瞳は閉じられたまま。
「パパみたい・・・。」
「僕には子疎か、妻も恋人もいないんだけど?」
「ア、アオイさんっ!?」
「おはよう、莉緖。目覚めの気分はどうだい?」
綺麗なアイスブルーの瞳が私を見る。
「お、おはようございます。あの・・・ご迷惑お掛けした様ですみません。」
「僕を信用してくれるのは嬉しいけど、もう少し危機感を持った方がいいよ。」
「す、すみません。」
「ま、こんな可愛い女の子に頼られるのは悪い気はしないけどね。昨日はご馳走様。楽しかったし美味しかったよ。ん?」
玄関に、朝早くから訪ねて来たのはシアンだった。
「あれ?アオイ先生、こちらにいらっしゃったんですね。」
「えぇ、どうかしましたか?」
「病院の窓が割られてて、それでお知らせしようと。」
私も一緒に、病院まで向かった。確かに、窓が木っ端みじんに割られていた。
「これは酷い・・・誰がこんなことを。」
「村のヤツじゃない。街から来てた、若い女だって聞いたんだ。おまわりさんのところにいるらしい。」
「若い女・・・あぁ、たぶんセトの元カノかも。最後の最後まで迷惑掛けられたな。これじゃ、住めない。」
割れたガラスの破片が、室内にも飛び散っている始末。
「あぁ、アオイ先生でお間違えないですか?警官のジェイクです。」
「はい、僕がアオイです。それで、この様になった経緯を伺うことは出来ますか?」
セトの元カノは、キエと言う。セトに街でナンパされ、付き合う様になった。交際歴は一ヵ月。熱心に口説かれ身も心も捧げたのが最後、それからは冷たくあしらわれる様になりアッサリと捨てられたらしい。見た目の華やかさに反して、真面目で堅物な印象だが、思いつめ過ぎてこの村にいることを聞きつけて訪れたらしい。病院を壊せば、また街に戻ってくると思い込みこんな暴挙に出た。
「それで、彼女をどうしますか?」
「そうですねぇ・・・。」
アオイは少し考えた後、笑顔でこう言った。
「同情する部分はありますが、ただで許す訳にはいきません。ですので、ここの片付けと新しいガラスを入れて貰うことで不問にしましょう。」
「分かりました。では、その様に伝えてみます。」
ジェイクは、直ぐに戻って行った。