第65章 春七日
セトはそういう女の子を選んで、今まで弄んできたらしい。そして、今まで手を出されずに済んだ女の子はいなかったとのこと。
でも、あの時に裸は見られてるし、キスだって・・・。
「脅かすつもりはないけど、今晩・・・気を付けた方がいいと思う。バレた今となっては、無理矢理にでも襲ってこの村から逃げる算段を付けているかもしれない。」
「そんな・・・。」
「ってことで、僕とゴッホさんで飲み明かさない?」
意外な提案だった。
「でも・・・。」
「あ、僕が信じられないか・・・。」
「そういう訳では・・・ご迷惑おかけするのが。」
「何だ、そんなことか。同じ村に住む住人同士なんだから、僕とすれば仲良くしたいと思うんだけど。」
笑顔でごり押しされて、アオイさんはゴッホさんを迎えに行ってしまった。
「飲み明かすって、ワインしかないけどいいのかな。取り敢えず冷やしておいて・・・後はおつまみかな?」
私には苦い出来事だったけれど、こうして私を心配してくれる人がいる。一人じゃないと言ってくれているようで、少し嬉しい。
やがて、辺りが薄暗くなってた頃、玄関のドアを開けようとする音が聞こえてきた。
「おいっ、莉緖、いるんだろう?ここ開けろよ。聞こえてんだろ?シカトすんな。俺と離れて寂しがってんだろう?優しくしてやるから、一回でいいからさせろよ。いいだろ?減るもんじゃないんだし。」
怒りもあるけれど、それより恐怖の方が強い。裏庭へと窓から出ては、隠れつつ家から抜け出した。
後少しで曲がり角と言うことろで、セトに見つかったらしく暴言を吐きながら後方から追い掛けて来られる羽目となった。
我武者羅に走っては、宿屋へと向かう。段々とセトの声が近付いて来るのが分かるが、怖くて振り返れない。
そして、捕まえられてしまった私は、一際大きく助けを呼ぶ声を上げた。
「あぁ~、ホント煩いっ。いいから、大人しく付いて来い。今から可愛がってやるから。俺、女を悦ばすの上手いからっ!!痛いっ!!!」
腕が離れたかと思うと、セトはその場にしゃがみ込んだ。振り返ると、その場にアオイとマホがいた。
どうやら、渾身の拳骨を落とされたらしい。
「本当に成りすましだったんだねぇ。」
呑気に感心しているマホ。
「お前・・・本当に馬鹿なほど分かりやすいよな?」
そこには、綺麗な微笑みを浮かべた般若がいた。