第65章 春七日
真っ青になったセトに反比例し、アオイは終始笑顔だ。鬼を飼っているけど。
「大人しくこの村から立ち去るなら見逃してやろうと思ったが、気が変わった。さ、おまわりさんのところに行こうか。」
「はっ?そんなことになったら、医者としてっ!?」
「お前みたいな奴は、その立派な身分証は返却した方がいい。」
引きずるようにセトを連れては、おまわりさんのところに行ってしまった。
「大丈夫かい?」
「あ、はい。あ、でも・・・ゴッホさんが来るのでは?」
「飲み明かすなら主人より、私の方がいいからねぇ?」
そうか、マホは酒豪らしい。
「さ、莉緖の家で待ってようか。」
「あ、はい。」
そして、先に初めてしまった私たち。出来上がった頃になって、アオイが訪ねてきた。お酒に弱い私はマホを見送って、アオイと続きを楽しんだ。
甘いワインは殊の外進んだ。
「そろそろ止めておこうか。明日に差し支えるだろうから。僕も帰るとするよ。・・・莉緖?何だ、寝てしまったのか。ホント、こんな時にでさえ用心しないなんて。君は余程大事にされてきたんだな。ま、分からなくはないか。こんなに素直で可愛いんだ。あのセトが本気になりかけてたようだし・・・僕の周りにいた女の子たちとも違う。セトも気に入るのは必然。初対面なのに、僕も何とかしてあげたいって思ってしまってる。でも、このままここに・・・ん?・・・そうか、寂しいんだな。僕の服の裾を握り締めたまま眠ってしまうくらいに・・・。」
大きな手が、頭を優しく撫でる。
その後、上着を掛けられアオイに寄り掛かったままご就寝。