第65章 春七日
「どうやら、本当に僕に成りすましていたんだな。なぁ?本名のセトは捨てたのか?」
「えっ?成りすまし?」
嘘だよね?と願う気持ちを込めて、アオイを見れば私と視線を合わさなかった。
「全く・・・お前は何処まで性格が腐ってんだ。」
「うるせぇーよ!!仕方ねぇだろ?捨てた元カノがしつこくてしょうがなかったんだ。」
アオイ改めセトは、またしても本当のアオイに拳骨を落とされていた。
「一応性格は腐ってても医者の端くれだから、僕に成りすましていた事はこの際不問にする。だが、素直そうな女の子をいいように扱うのだけは止めろ。」
「痛っ・・・さっきから、俺の頭に拳骨落とすのやめろよ。馬鹿になるだろうーが。」
「心配しなくとも、今以上に馬鹿になることはない。さ、彼女に謝れ。」
「後少しだったのに・・・後少しで、初物を頂けるところだっ!?痛い!!!あ~、もう面倒だから出てく。じゃあな。」
本当のアオイが引き留めようとしたけれど、セトは茫然としたままの私の横を素通りしては病院から出て行った。
病院の中に静寂が訪れた。
静かな中、本当のアオイが私の目の前に来た。
「説明するから、僕の話しを聞いてくれるかな?」
私は力なく頷いた。
待合室の椅子に向かい合って座った。
「先ずは、自己紹介からだね。僕が本物のアオイ。はい、身分証。」
差し出された身分証は医者として証明されたカード。名前と顔写真が確認できる。
「本当に、あの人はアオイじゃなかったんですね・・・。」
「本名はセト。僕と同じ学校を卒業した同窓生。」
アオイの話しはこうだった。
そもそも、この村に正式に来るのは明日。でも、偶然出会った宿屋のゴッホと知り合いになり、自分ではない誰かが医者として配属されたことを知った。そして、丁度その頃、セトの元カノがセトの浮気によって、こっぴどくフラれたと小耳に挟んだ。元カノは、余程セトが好きだったらしく、付き纏ったらしい。それが煩わしくなって、たまたまこの村の事を聞いて成りすました。手紙も自作自演。
「学生の頃から、女性に見境ないヤツだったんだ。」
「・・・本当に、アオイさんが本物のお医者さんだったのですね。」
「そうだよ。成りすましを聞いて、一日早くにこの村に来たんだ。ごめんね?もう少し僕が早くこの村に来ていたら、こんなことにはならなかったのに。」
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