第64章 春六日
「莉緖にそんな風に見詰められるのは悪くないな。」
そう言えば、凝視してた。だって、真剣なお澄ましモードのアオイなんて中々見られるものじゃないから。
「そ、そんなに分かりやすい?恥ずかしいなぁ。」
「・・・安心する。」
ポツリとアオイが呟いた。
「聞いていい?元カノとは、どれくらい付き合ってたの?」
「五年弱。」
思ったより随分と長い期間だった。浮気するくらいなら、ちゃんとアオイを解放すればいいのに。お医者さんになるから、キープとか思ってた?
そんなの・・・アオイが・・・。
「百面相してる。」
「えっ?」
「俺にとっては終わったこと。それに、今は可愛い恋人兼未来の嫁がいる。だから、俺は不幸せでも可哀想でもない。」
「そうだね。私が幸せにする!!」
あ、アオイの目が丸い。
「えっと・・・それ、プロポーズ?」
「えっ、あ、い、今すぐは無理だけど・・・その・・・私も、アオイがいい。」
「そっか・・・嬉しいものだな。思いを返してくれるのって。頑張って口説き落とさないといけないなぁ。さ、今日はここまででいいか。帰ろう。」
二人仲良く手を繋いで、家へと向かう。
「アオイ、何が食べたい?」
「ん?そうだなぁ・・・やっぱり、莉緖かな。」
「へっ?」
アオイを見上げると、真顔の視線とぶつかった。
「俺は莉緖の全部が欲しい。身も心も全部。待つつもりだけど、出来ればなるべく早くが嬉しい。」
「そ、そんなの、待つってことには・・・。」
「俺って正直者だから。」
確かに、その物言いはアオイらしいのかもしれない。
「で、夕食はチキン南蛮がいい。」
「あ、チキン南蛮。うん、分かった。」
急に会話が変わり、後はいつもの雰囲気に戻った。
その夜。
夕食を一緒に作り、入浴後に二人でワインを飲んだ。私は想像以上に弱かったらしい。
アオイ相手に纏わりついて、随分と上機嫌で笑っていた・・・と思う。
何がそんなに楽しいのかとアオイに聞かれて、そんなのアオイが傍にいるからだと言ったら吐きそうなほど抱き締められた。
付き合った期間が五年弱とは、思い出もたくさんあるだろう。良い事も悪い事もひっくるめて。
「アオイ~、ぜっっったいっ幸せにするからねっ。覚悟しててね!!ハハハ。」
「楽しそうだな、莉緖。」
「うん、楽しいよ~。アオイがいてくれるだけで。」
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