第64章 春六日
わ、私には関係ないよね?色々、気になるところもあるけど、関わらないのが一番。
「あ、サンドイッチ美味そう。いただきます。」
アオイは通常運転だ。私も一切れ摘まんでは、齧りついた。
「でも、童貞捨てるタイミングで妊娠させるってある意味凄いよな~。」
何でもない様に言ったアオイに、私は吹き出しそうになった。何か、凄いカミングアウトを聞いた気がする。
「浮かれ過ぎたんだろなぁ~。本物じゃないのにな。」
そんなに似ていたんだろうか?
アオイの顔を見ると、どこか遠くを見ている様な目をしていた。私が見ていることに気付いたのか、視線が交わる。
「アオイ?」
アオイは私の肩に頭を乗せた。少し窮屈そうに体を曲げて。
「莉緖がいてくれて良かった。」
「まだ、仕事残ってる?明日でも構わないのなら帰ろう。」
「あ~、そうしたいのは山々なんだけど・・・。」
どうやら、あの二人によって手を止めさせられていたらしい。そこで、机の上にある手紙に気付いた。
「手紙読んでたの?」
何気に口にしたら、思い出した様にアオイはその手紙を私に寄越した。私はその差し出された手紙とアオイに交互に視線を向ける。
「えっと、読んでいいの?」
「下手に揉める要因を作りたくないから。それ、元カノから。」
私は受け取り、分厚い手紙に目を走らせた。手紙の内容は、突然姿をくらませたアオイの所在地を探した事から始まり・・・浮気の経緯と結果、そして、アオイと寄りを戻したいと言う何とも一方的で自己主張の激しいものだった。
「謝罪の言葉はないんだね・・・。」
「自分が悪いとは思ってないんだろうな。以前から、行動力だけはあるヤツなんだ。だから、ここに来ると思う。」
手紙を返すと、その手紙をビリビリと破った。
「アオイは、何処にも行かないよね?」
「良かった。帰れって言われなくて。勿論、莉緖の傍にいる。」
「信じるからね?」
「あぁ、最後まで信じてて欲しい。俺の嫁は、莉緖しか考えていないから。」
肩を抱かれ、触れるだけのキスをされた。
「さて、資料の片付けだな。」
「手伝おうか?」
「重いから気持ちだけ受け取っておく。30分だけ待っててくれるか?」
頷くと、アオイは立ち上がり破った手紙をゴミ箱に入れ、箱から分厚い資料を本棚に積めていく。