第64章 春六日
今朝は、快晴らしい。明るい陽射しが部屋に入って来る。そして、安定のアオイは私にしがみついている。きっと、もうアオイは起きている。
「アオイ、大好き。」
「俺も好き。」
ほら、直ぐに返事が来た。
「アオイ、いつから起きてたの?」
「寝てる。」
「嘘は嫌。」
「もう一回、寝るから大丈夫。」
大丈夫の意味が分からない。なので、思いっきり引き剥がした。ベリベリと音がしそうなくらいだ。
「あ~、残念。もう少し柔らかさに包まれていたかったのになぁ。」
全然、悪びれてない。それどころか、今朝はあちこちにキスされる。くすぐったくて笑ってしまう。
「今日の予定は?」
「一日病院だなぁ。」
どうやら、まだ忙しいらしい。仕方ないか。
「差し入れ欲しいなぁ~。」
「うん、持ってく。」
こんなことでも、ちょっと嬉しい。
朝食の後、またまた病院へ行くのを渋るアオイを何とか送り出し、私は畑仕事に精を出す。今日は宿屋にも出荷だ。
収穫した野菜を摘まみ食いしつつも、何とか仕事を終えて少し遅いランチの用意をしてから病院へと出向いた。
「アレッ?鍵…開いてる。」
ドアを開けて一歩踏み出せば、奥から争う声が聞こえて来た。声の主は、シアンとノルドのもの。
そっと部屋の中を覗き込むと、確かに二人はいた。そして、椅子に座ってこめかみを押さえているアオイの姿もある。
「あの・・・。」
おずおずと声を掛けると、三人が私を見た。
「莉緖、来てくれたのか。」
「う、うん。取り込み中だった?」
「嫌、そうでもない。二人にはお帰り願うから問題ない。と言うことで、後はご自宅でどうぞ。」
何か言いたそうなシアンだったが、アオイに息子共々追い出された。静かになった部屋で、アオイに勧められベンチに座る。
「何かあったの?」
「ん?まぁ、いずれ莉緖の耳にも入るだろから言うけど、ノルドが観光客の一人を孕ませてた。」
「はい?」
「莉緖に似てたからとか言い訳してたけど、ただの浮気者だよな。似てたとしても本物じゃないんだし。で、相手が責任取れって怒鳴り込んで来たらしい。」
は、孕ませたっ!?
「責任って?」
「女性は産むつもりだから、責任とって結婚するしかないだろうな。そうでなければ、訴えるとか言ってたし。」
何も言えなかった。