第60章 春の二日
スキンシップが多いのは、前の恋が原因だったのかもしれない。
「今後の話しがしたい。色々と取り決めもしたいし。話しを聞いてくれるか?」
「うん。家に戻ろう。」
絡められた指に引っ張られ、家へと戻った。
彼から提案されたのは、家賃を含めた金銭の取り決めだった。宿屋より多い金額だったけれど、頑としてその意思は曲げなかった。
「恋人におんぶにだっこって俺のガラじゃないから。どうせなら、逆に面倒みたいくらいだ。だから、俺のプライド守らせてくれたら嬉しい。」
「うん、分かった。代わりに美味しいご飯を用意するね。」
「もし可能なら、あの服もたまにでいいから買わせて欲しい。着心地いいから気に入った。」
最後に、個人部屋としてちゃんとしたものを揃えようと言えば、可能ならベッドは一緒がいいなんて言われてしまった。意外に寂しがり屋なのかもしれない。
「病院はいつからやるの?」
「う~ん、そうだなぁ。まだ必要な物も届いていないし、看護師もまだ来てないからそれでも近々か。」
「看護師って・・・美人?可愛い?」
「ん?男だぞ?来たら紹介する。」
良かった、男性だった。
「ヤキモチ妬いた?」
「そ、それは・・・。」
「嬉しいよ、妬いてくれるのは。でも、俺は浮気しないから。元から、恋人がいれば他に目がいかないんだ。あ、いない時は目移りするのかって言うのは違うからな?」
焦る様にいう彼が可愛くて、つい笑ってしまう。きっと、こんなにイケメンだけど器用な人じゃないのかもしれない。
時刻は夕方。夕食の為に冷蔵庫を眺めつつ、メニューを考える。ウチはパパが結構料理を作る人だったけど、何が食べたいとかあんまり聞かれなかった気がする。
お祖父ちゃんもパパと同じで料理好きだったなぁなんて思いながら、フト隣りを見ると彼が一緒に覗き込んでいた。
「ねぇ、何が好き?」
「俺?そうだなぁ、何でも食べるけど・・・肉も野菜も満遍なく食べたい。これでも一応、医者だし。」
「満遍なくね~、分かった。」
今晩のメニューはハンバーグ。サラダとスープも外せない。そしてパンよりご飯。
「俺がサラダ作ってもいいか?」
「ありがとう。」
そっか、彼もパパと同じで料理をする人だ。でもね、密かに一番好きな料理はママが作ってくれるポトフ。夏の暑い季節でも食べたくなるくらい大好きなんだ。