第60章 春の二日
その後、朝食作りを再開し彼も手伝ってくれて完成。一緒に食事をしては、彼は一度荷物を引取りに行くと言って出かけてしまった。
私は畑に出た。水田にはいつ植えられたのか、稲が植わっている。これも補正?そして、シアンが言っていた野菜だ。本当に美味しそう。幾つか収穫しては、出荷箱に入れた。
ママがやっていた様に、養蜂箱を覗いたり楓の木を見に行ったり茶摘みをしたりして時間を過ごした。最後に向かったのは、ビニールハウス。季節を無視した作物の宝庫である。
果物はまだ実っていなかったけれど、花壇の花は色々と咲き乱れていてとっても綺麗だ。あ、ビニールハウスのドアが開いた?
振り返った時にそこに立っていたのは、思っていた彼ではなくシアンの息子であるノルドだった。
「勝手に入って来て悪い。その・・・噂を確認したくて。」
「噂?」
「あぁ、そうだ。昨日この村に来た医者と付き合う事になったって本当か?出鱈目だよな?ただの噂だって言ってくれ!!」
どことなく目が血走っているノルドに、私は眉を顰めた。
「嘘じゃないです。」
「えっ?あ、い、医者だからか?医者だから余所者のアイツを選んだのか?」
「余所者って、私も余所者ですよね。」
「あっ、それは・・・。」
4年前にこの村に来たんだもの。私だって、立派に余所者だ。
「莉緖?キミはシアンさんのところの・・・何をしてた?」
それは、ピリッとした低い声だった。ノルドは顔を強張らせて、さっさとビニールハウスから出て行った。
「早く帰って来て良かった。」
「えっ?」
「さっき、宿屋で見かけたんだ。俺との事宿屋のオーナーに聞いたみたいで、顔が強張っていたからな。本気だったみたいだな。だからって、莉緖は譲れないけど。」
「あの・・・浮気はしてないから。」
彼は私を抱き締めて、頭に顔を埋めた。
「思ったより結構メンタルやられてたって気付かされた。だからって、莉緖のこと信用してない訳じゃないから。なぁ、少しだけでいいから俺を抱き締めてくれないか?」
捨てて来たって言ったけれど、本当はそう簡単なものではなかったのだと思う。私は彼の背に腕を回すと、思ったより深い溜め息が彼から零れた。
「ありがとな。ちょっと元気出た。」
「大丈夫。私もアオイの事、大事にする。約束する。」
彼は少しだけ表情を緩め、私にキスした。
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