第60章 春の二日
翌朝、昨日の雨が嘘みたいな青空だった。どうやら、朝は苦手らしく彼はまだ眠っている。そして寝相も良くないのだろうか?腕枕して貰っていた筈が、今は私に抱き付いて眠っている。
だって、彼のつむじが見えるもの。いい香りがする彼の頭を撫でて見ると、薄っすらと目を覚ました。
「莉緖?」
甘える様な声で私の名を呼ぶ。って、今更ながら私の胸元に顔を埋めて眠っていた事に気付く。
「んっ、柔らかい・・・。」
「ア、アオイさんっ!?」
グリグリと私の胸に顔を擦りつける彼。昨晩はアッサリ寝てしまったから、油断していた。
「アオイ・・・。」
「えっ?」
「アオイでいい。敬語も要らない。そろそろ起きるか。このままこうしていたら、無理矢理犯しそう。」
「ダ、ダメですっ!!ご飯、そうご飯作って来ます。」
彼を突き放しては、隣りの部屋で身支度を整えてキッチンへと走って行った。そして、取り残された彼は舌なめずりしながら、「可愛いなぁ」なんて笑っていた事を私は知らない。
キッチンで朝食を作っていると、配達人のシアンが来た。牛乳・卵・肉の配達である。受け取っていると、遅れて彼が顔を出した。
「おはようございます、シアンさん。」
「アレ?アオイ先生。何で莉緖の家に?」
「あぁ、俺たち付き合うことになってそのままここに住ませて貰うことになりました。」
「はっ!?えっ、展開早くないか?でも、そうか・・・ウチの倅が嘆くだろうな。ずっと、莉緖に片思いしていたのに。」
すると、急に彼の腕の中に抱き入れられる。
「早い者勝ちだと言っておいてください。もう、莉緖は俺のものなので。」
「ノルド・・・泣くだろうなぁ。でも、男なら当たって砕ければ良かったんだよな。」
砕ける前提ですか?親なのに酷くないですか?
「まぁ、仕方ないよな。他にも泣く男どもがいるだろうが、確かに早い者勝ちだ。まぁ、アオイ先生。しっかり莉緖を守ってやってくれ。」
「勿論です。」
良い笑顔だ。そうか、これは余所行きの顔。お医者さんとしての顔かもしれない。だって、敬語使っているんだもの。
「それにしても、相変わらずここの畑の野菜は艶々してるな。また出荷したら買わせて貰うからな。」
配達が終わり、シアンを見送る。
「やっぱり、モテるんだなぁ。あ、そうだ。」
触れるだけのキスをしてきた彼。