第59章 春の初日
珈琲は結局彼が淹れてくれて、二人で外の雨を見ながらくつろいでいた。そして、やたらとスキンシップが多い。結局、キスも何回されたか分からない。
「雨・・・止みそうにないな。」
「そう言えば、病院の場所は?」
「そう言えば言ってなかったな。この農場前の通路の向かいにある白い建物だ。」
そんな近距離?そう言えば、ゲームの中でも同じ立地条件だったっけ?因みに、農場前には10mほどの通路がある。そしてT字路になっていたはず。
ゲームの攻略キャラには、お医者さんはいなかった。だから、こんな風にイレギュラーのキャラが存在するのだろうか?
「じゃあ、その病院に居住スペースもあるんですね。」
「いや、そう広い建物ではないから、寝泊まりするのは宿屋にする予定だ。」
これも、現実ではありえない条件だな。毎日宿屋で宿泊なんて、現実では早々に出来ることではないと思うもの。
「ただ、宿屋はこの村の入り口にあるだろう?少し遠いんだよな。」
頭の中で地図を思い描く。確かに、徒歩では地味に遠いかも?通えない訳ではないけれど。
「なぁ、莉緖。この雨は俺をここに留めようとしていると思わないか?止む様に見受けられないのだが。」
「そうですね。」
暫し無言が続き、彼は溜め息を吐いた。
「そろそろ宿屋に行こうと思う。」
あ、稲光りが光った。それに雨は横殴りになっている。
「あの、泊っていきますか?」
「魅力的な誘いだが、可愛い恋人に無体を働きたくない。医者とはいえ、俺も若い男だからな。」
こういうことを真顔で言うから、戸惑ってしまう。私には免疫がない。でも、こんな中行かせたくない。
「この村唯一のお医者さんに風邪をひかせるわけにはいきませんから、それに部屋も余ってますし鍵も掛かるので大丈夫です。」
「・・・そうか。あんな事を言っておいてあれなのだが、引き留めてくれて良かった。すまないが世話になる。ただ、荷物の全てを宿屋に置いてきたから何も持っていない。」
「着替えとかなら大丈夫ですよ。確か作ったのがあったはず・・・。」
作業場の機織り機横にある棚を見に行くと、数着の衣類があった。二度目のゲームの私グッジョブである。
「これはいい肌触りだし、綺麗な色だな。ありがとう、これは買い取らせて貰おう。」
あ、頭の中に売値の価格が表示された。これは、パパの補助機能だろか?
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