第59章 春の初日
思わず思ってしまった。こんなに優しくてイケメンなのに、どうして彼女は浮気なんてしたんだろう?私だったら、絶対にそんな悲しい思いをさせたりしないのに・・・なんて思って、ハッと気付いた時には柔らかい唇が私の口を塞いでいた。
勿論、初めてである。目の前にある伏せられた目と、整った顔立ち。長い睫毛が綺麗で、拒否する前に私はママから聞いたパパとの馴れ初めを思い出した。
スッと顔が離れ、綺麗な瞳が私を見ている。その途端、私の顔は真っ赤になった。その変貌ぶりに彼は笑ったのだけど・・・直ぐに、「すまない」と謝罪した。
「余りにも莉緖が可愛くて、我慢出来なかった・・・。その、順番が逆になったが一目惚れをしてしまったらしい。恋人がいないのなら、俺と付き合ってはくれないか?」
私の心臓は早鐘の様にドクドクいっている。ママから聞いていたけれど、恋人ってこんなにも早くに出来るものなの?もし、ここで頷かなかったら・・・ううん、ママはあの決断を後悔しなかったって言ってた。
「わ、私でいいんですか?」
「勿論だ。どうか、俺と付き合って欲しい。浮気は絶対にしないし、莉緖だけを愛すると誓う。」
真剣な眼差しに捉えられ、私は頷くことしか出来なかった。でも、現実でこれをされたら絶対にお断りしていたと思う。
「ありがとう。大事にする。」
そう言って、笑ってくれた顔を見てその笑顔に心を奪われてしまった。「何これ、ギャップ?カッコイイ・・・」私って、こんなに単純だったっけ?
「もう一度、キスしてもいいか?」
「えっ?そ、それは・・・その・・・私、初めてで。」
私の言葉に目を見開いて、口元を手で覆う。
「重ね重ね、すまなかった。初めてをあんな形で奪ってしまった。でも、この埋め合わせは必ずする。」
手が早い人らしからぬ、焦った表情に私は頬を緩めた。
「嫌じゃなかったから・・・大丈夫です。」
「えっ?そ、そうか。で、キスしても?」
頷くと、再び重ねられた唇。でも、思った軽いキスじゃなくて、途中から慌ててしまったのだけど。
「ここへ来るまでは、女なんてって枯れた事を思ってたけど・・・莉緖にこんな風に出会えるのなら、浮気された事も今ならどうでもいいと思える。あぁ、可愛い。」
何か、急激に空気が甘くなった気がする。それに、こんな事恥ずかしくて言えないけど、アオイさんとのキスは気持ち良かった。
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