第53章 学祭と言う名の戦場
安心していた矢先、理人の言葉に私は慌てて引き留めた。
「ここにあるもの、全部下さい。」
陳列しているのは、4種類のワッフルが全部で30個ほど。私へのお詫びだろうか。
「い、いや、全種類二個ずつ下さい。」
苦笑いされたけれど、何とか購入。今度は、珈琲のお店に私が理人を連れて行く。目的の珈琲を買い、静かな場所へと移動した。
「ごめん・・・。」
ポソッと、上から声が聞こえた。
「座って?」
大人しくベンチに座った理人。その隣りに並んで座った。二人の間の距離はない。
「はい、珈琲。ワッフルはプレーンがいい?」
「怒ってないの?」
「吃驚はしたけど、怒ってないよ。だって、理人は自分のことでは怒らないでしょう?そんな人を怒ったりしないよ。」
理人が大きく溜め息を吐いた。
「莉亜。」
「ん?」
「卒業したら、直ぐに結婚して。」
驚いて理人の顔を見た。
「今後も、こんなくだらないことがいっぱいあるかもしれない。俺・・・莉亜と引き離されたら、間違いなくまともじゃいられないと思う。だから、約束が欲しい。」
今も、まともじゃない・・・?なんて、言えそうな雰囲気じゃない。
「約束は構わないけど。ただ、直ぐってどれくらい?」
「卒業式の翌日。」
それは随分直ぐだな。さて、どうしよう。このままいけば、来年の懇談会に嫁入りの話しをしなければならない?いや、わざわざ言わなくてもいい。私もちょっとテンパってる。
「えっと・・・一般的には、ジューンブライドって言わない?」
って、たった三ヵ月しか変わらない!!
「6月か・・・。それなら、許容範囲か。」
えっ、いつくらいで許容範囲じゃなかったんだろう?怖くて聞けない。
「分かった。妥協する。」
6月で妥協された・・・。
「あ、あの・・・もうちょっと先、とか言ったらどうだった?」
「もうちょっと先って、どれくらい?」
「い、1・2年とか?」
理人の顔が近い。心の中で盛大に悲鳴を上げている。
「既成事実作って、無理矢理外堀埋める。」
うはーっ!!理人は本気だ。本当にされそうで、下手な事言えない。綺麗な蜂蜜色の瞳は、熱を含んでいる。
社会人・・・やれるだろうか?
「で、どっち?選んでいいよ。6月か・・・既成事実作られるか。」
「ろ、6月でお願いします。」