第53章 学祭と言う名の戦場
「そ、その人は何ですか?」
あ、女の子の声だ。勇敢にも声を掛けてきた。そして、理人は・・・私が手にしている本を覗き込んでいる。顔が近い。目が合うと、頬にキスされた。
また、耳が痛くなるような声が上がる。
「それ、先生に言って後日借りるのじゃダメ?俺が頼んでみるよ。だから、次に行こう。」
子羊は大変だ。本を台の上に戻すと、するりと私の手を掴む理人。
「後で、静かなところに行こう?イチャイチャしたい。」
勇敢な女の子に聞こえるくらいの声で、私に提案する。そして、私は女の子に睨まれている。面倒なので目は合わせない。
「心配しなくても、外で最後までしないから。」
何ってこと言うんだ!!理人の顔を見上げれば、唇に素早くキスされた。一瞬だったけれど。でも、女の子の心を折るには十分だったらしい。
そして、立ち尽くしている女の子をそのままにして、理人に手を引かれ展示場から出た。私も、ちょっと呆然中。
「理人は最後まで読めたの?」
「まぁ、大体は。あれも後日借りる事にする。もう一回読みたい。途中から、頭に入らなかった。」
それはそれは・・・。
「大変だったね。子羊の理人は。」
「俺が子羊?逆だろう?」
だから、理人・・・それは大きく言っても欲目なだけだよ。好きな人にそう言われるのは悪い気はしないけど。
そして、次に向かったシフォンケーキのお店。いや、予想はしてたよ?でも、まさかお店で私を押し退けて理人に声を掛けて来ようとする店子がいるとは流石に考えてなかった。
押し退けられそうになったけれど、強く理人に引っ張られ腕の中に収まる形になったのだけど。
「俺の恋人、押し退けるなよ。」
珍しく言葉に出して怒っている。さっきのことがあったからだろうか?そして、今の私・・・ちょっと居たたまれない。店子の女の子は泣きそうな顔をして謝っていた。
そして、理人・・・。彼女ってフレーズじゃなく、恋人って言った。何か、余計に照れくさい。
「莉亜、ごめん。次に行こう。」
別の店子の女の子がお詫びだと言って、二袋寄越そうとしてくれたけれど理人は受け取らなかったし、一瞥だけして足早に歩き出した。
そして、向かった先はワッフルのお店。ここでは、確かに理人に見惚れている女の子はいたけれど、押し退けられるようなことはなかった。