第53章 学祭と言う名の戦場
「オオカミの群れの中に、俺抜きで行かせるわけないだろう?」
何方かというと、オオカミに気を付けないといけないのは理人の方だと思う。絶対、騒動が起きる。だって、私が調理室から席を外した時、理人に絡んでくる女の子たちがいたんだから。
一回や二回じゃない。その上、女の子同士で諍いがあったくらいだ。理人はというと、無表情で我関知せずでカレーを掻き混ぜていたらしい。
「うん、一緒に回りたい。」
友達付き合い?明日は却下だ。
「ねぇ、カレーの匂いしない?」
理人に尋ねてみれば、顔を近付けて来る。ちょっと擽ったい。そして、匂うのが長い。
「理人・・・まさか、臭い?」
「ううん。いつものいい匂い。俺、莉亜の匂い好き。」
と言いながら首筋に甘噛みされる。吃驚して体を反らしたのだけど、理人の腕に引き寄せられた。
「どうして逃げるの?」
あれ・・・何か、御不満らしい。
「び、吃驚しただけだよ。突然だったから。」
「じゃあ、突然じゃなければ逃げないの?」
う~ん、何か怒ってる?
「ねぇ・・・まさか、私がいないときに何かあった?」
今の私の声がいつになく低い。その事に気付いた理人は、目を丸くしていた。
「ちょっと・・・絡まれただけ。」
「可愛い女の子に?」
「可愛い?莉亜なら大歓迎だけど。」
ん?可愛い=私の認識になってない?
「ベタベタされて、凄く気分悪かった。なぁ、何で無視してんのにそれが肯定だって思えるの?まぁ、不機嫌に見下ろしたら逃げてったけど。」
うん、やっぱり明日は学祭デートだ。理人こそ、オオカミの群れの中に子羊放牧するようなものだし。
「明日はずっと、私といてくれる?」
「勿論。大丈夫。ちゃんと手を繋いで何処にも行けないようにするから。」
ん?何か物騒な内容が聞こえたけれど聞こえなかったことにしておこう。そして、手を繋ぐ=恋人繋ぎ。
理人の安全を死守したい。
三日目の朝。ペアルックではないけれど、同じブランドの同系色で服を揃えた。ラフでシンプルだけど、理人が着ると美しい。
「莉亜、今日も可愛い。」
理人の機嫌は直っている。さて、出陣だ。
大学校内に入り、地図を見る。
「理人のお目当ては?」
「俺?そうだなぁ・・・。珈琲専門店は行っておきたい。後は展示物会場の、先生が書いた論文も少し見たい。」