第1章 農業生活初日
【クリア後の世界へ行きますか?】
そもそも、この質問にYESと答えたのが原因だろう。誰だよ、返答した奴は!!私だよ・・・。
定番なの?異世界とかゲームの世界にトリップするのって。
私・・・見覚えのあるベッドで寝てた。暫し、呆然。今の自分が置かれている状況を、必死に理解しようとしている。
「この部屋って・・・ゲーム内の私の部屋っ!?」
よろよろと起き上がり、カーテンを開ける。視界に飛び込んできたのは、これまた見覚えのある風景。
窓を開ければ、爽やかな風が入ってきた。青い草の香りがする。
「気持ちいい風・・・って、夢の中で風って感じられたっけ?」
部屋の中を見渡したが、ゲームと同じ物が並んでいる。色々と触ってみた。着ているパジャマやベッドの感触、クローゼットの衣服や家具など全て。
確かに感じる質感。品質の良さを感じられるものばかりだった。これも、極めに究めたが故の産物だからだろうか?
一先ず着替えては、他の部屋も探索しよう。
一時間後、簡単な探索は終わった。
「全てがゲーム通りだった・・・。ん?何か外から音がする。」
外へ出てみれば、綺麗に並んだ畑の野菜たち。それに水を撒いているスプリングクーラー。ゲーム内では、決まった時間に自動設定されていた。音はこれが原因。
そして、植物園並みの温室。これが、ビニールハウスからの最終形態の果てだ。畑のレベル・作物のレベルなどをMAXにしなければ建てられない設定。
ゲームの生活を現実で行えば、軽く過労で死ぬほどの毎日だった気がする。今は設備が整われ、そう時間や力仕事に追われることはないのだけど。
温室の中にも入ってみた。野菜や果物、土の香りが鼻を擽る。
「ねぇ・・・夢の中って、匂い感じられた?」
水道があったので、水を出してみた。
「うん・・・冷たいし、濡れてる。」
指先から滴り落ちる水。
「トリップしたのっ!?まさか!!」
そして、冒頭に戻る。
土を触れば汚れるし、水を触れば濡れる。匂いも味も感じる。
もう、現実逃避は出来なかった。現実の私は20歳の学生。そして、明日から長い夏休みだ。
それに、現実では嫌なことがあった。
二年付き合っていた友人紹介の同じ年の男性が、実はずっと紹介してきた友人と二股かけていた事。
友人発案の、私への嫌がらせだった。