第5章 農業生活五日目
「どう?ハムと僕の味は。」
何ってことを言うんだ、この人は。私の顔から火が噴き出そうだよ。それに、そんな色気ある目で見ないで欲しい。また、足元が疎かになりそう。
「お、美味しいです。」
「良かった。僕のことも美味しいって言ってくれて。もう少し僕に慣れたら、もっと甘い僕を食べて貰おうかな。」
リヒト・・・楽しそう。それに、フェロモン駄々洩れな気がする。リヒトが言っている事って、そういう意味だよね?私も子供じゃないし、経験がない訳じゃないから・・・。
「か、考えておきます。」
「莉亜?」
私は少し真剣になったリヒトの声につられて、リヒトを見上げた。
「僕は莉亜の嫌がることはしない。それだけは、忘れないで?」
「は、はい。」
「莉亜だけを大事にする。約束する。」
決意表明の如く、そう言っては額にキスしたリヒト。空気が甘い。その後は、リヒトによって色々と試食。丸で、親鳥が雛に餌を与えるかのように・・・。
そんな甘さを含んだ空気を壊した、稲光の音と光。思わずリヒトに抱き着いてしまった。ただ、いきなりで驚いただけだったけど・・・リヒトから離れがたい気持ちになっていた。
そして、リヒトはそんな私を抱きしめてくれている。というと、包まれている感じだ。優しい腕の中は、心地よかった。なのに、ムードをこれまた壊したのは私の腹時計。どうやら、そろそろお昼時らしい。今の私の顔は真っ赤だと思う。別の意味で。
「一緒にキッチンに行こう?僕が莉亜に側にいて欲しいんだ。」
お気遣いありがとうございます。加工品は冷蔵庫に仕舞い、リヒトに手を引かれキッチンへと向かった。ランチは手軽にパスタ。トマトソースたっぷりのナポリタンだ。
蒸かしたジャガイモやアスパラガスなどの野菜と、コンソメスープに舌鼓。本当に毎日が美味しい。
「リヒトさん・・・。」
「ん?」
「私も何か料理します。リヒトさんは何が好きですか?」
リヒトはびっくりした顔をしたものの、即答だった。
「莉亜。」
「はい?」
「好きなものだよね?」
えっと・・・質問の仕方間違ってないよね?でも、ここで好物はと尋ねて、私の名がもし出たら羞恥で死ねそう。あ、私・・・自惚れてた。
「た、食べ物で・・・。」
リヒトが、じっと私を見ている。
「茶碗蒸し。」
意外な返答でした。