第46章 農業生活 夏 十三日目
最後のコーラルの顔は、スッキリした顔だった。イルミナさんにコキ使われているらしいし、出来る人だから今後は問題ないだろう。それに、今回も許して欲しいと言われなかった。
コーラルは言いたいことだけ言って帰って行った。どうやら、かなり多忙らしい。あの攻略本のような書類はコーラルに返した。私には必要ないものだ。
最後に何か言いたそうだったけれど、目の前のリヒトのせいかそれ以上は何もなかった。でも、村の為に尽力してくれるならそれでいい。
その後、再び作業場に戻った。大豆など材料を機材に入れて、醤油と味噌づくり。ここは外せない。そして、最近購入した麺を作る為の機材を使う。
作ったものは饂飩。夏だから、冷やし饂飩が食べたい。出来上がった饂飩を容器に入れて、キッチンへと向かった。後片付けをしているカミルとリヒト。
そして・・・黄色い声を上げ帰ろうとしない女性客。二人の塩対応に苦笑いしつつも、キッチンに入る。女性客の視線が痛い。
「莉亜、作業は終わった?」
「うん。あのね、饂飩を作ったの。」
「ありがとう。夏だから野菜たっぷりの冷やし饂飩がご要望かな?」
その時、饂飩なんて・・・と言うバカする様な声が上がった。リヒトは饂飩が入った容器から、一人前くらいの饂飩を出して直ぐに湯搔き始めた。
何をするんだろう?ただ、リヒトが湯搔き具合を確認しつつ綺麗に湯搔いた饂飩をザルに上げて水でしめている姿を眺めていた。隣りでカミルもそれを見ている。
そしてピカピカした湯搔き立ての饂飩に、少量の出汁醤油を掛けたものを女性客にサービスだと言って提供した。満面の笑顔で、背景にブリザードが見えると言う器用な真似をして・・・。
まぁ、女性客はそんなことに気付きもせず、リヒトにうっとりとしつつその饂飩を食べた。顔を見合わせて、美味しいの声が上がった。
その後、リヒトが如何に私が凄い腕前なのかということを、懇々と説教するかのように話しつつ、更に、如何にリヒトが私のことを愛しているのかも説明していた。
段々と、女性客の目が陰っていく。何とかして欲しいという目を向けられたが、私もカミルもスッと目を反らした。私だって、下手にリヒトを止めたくない。止めれば、とばっちりが来そうだから。
最後は死んだ魚のような目をして、帰って行った。少しだけ、申し訳なさを感じてしまう。