第43章 農業生活 夏 十日目
私はというと、カウンターの定位置に座り果実水を飲む。
「リヒト、今日のお店のメインは?」
「豚肉のピカタだよ。ケチャップがたくさんあるから、丁度いいかなと思って。それに、豚肉もたくさんあったよね?」
そこへ、燻製が終わったブザーの音が鳴り響いた。
「あ、終わったみたい。行ってくるね。」
「この漂う香り、本当にそそられますよね?あ~、俺、莉亜さんが作るハムって好きなんですよね。何って言うか、肉肉しくてジューシーで。祖母もあれを食べて増々元気なんですよね。」
「ありがとう、カミルくん。そんな風に言ってくれて嬉しいよ。じゃあ、行って来る。」
作業場に行き、燻製機の扉を開いた。この香りにヤラれて、涎が出そう。トレイに全て出しては、手始めに試食。何と言われても止められない。
でも、今回はキッチンに持って行った。そう、持って行こうとしたのだけど・・・一人では無理だった。誰だよ、こんなにたくさん作ったの!!私だった・・・。
取り敢えず、一個だけトレイを持ってキッチンへと向かう。
「あ、あの・・・運ぶの手伝って貰うのは大丈夫?」
「カミル、少し火を見てて。じゃあ、莉亜行こう。」
え、メインの料理人が動いていいの?カミルだって、自分が行こうと思ってたみたいなんだけど・・・。ま、いいか。
「ねぇ、莉亜。今回はレパートリーも豊富だね?」
そう言えば、こっそり忍ばせた卵の燻製も見つかる羽目となってしまった。
「あの時間でこの量を捌ける、莉亜の技量を尊敬するよ。でも、今日のお昼からは室内で過ごそうか?ね?」
有無を言わせぬ笑顔の圧力に、私は何度も頷いた。
「じゃあ、莉亜はその一つを持ってね。後は僕が持って行くから。」
「お、お願いします。」
若干、圧倒されつつもリヒトの後をついていく行く。キッチンに行けば、カミルの目が丸くなっていた。
「カミルありがとう、変わるよ。」
「また、随分・・・。」
遣り過ぎ?って言う目を向けられて、少々居たたまれない。カミルに冷蔵庫に仕舞われそうになったので、一本だけ引き取った。
確かに肉肉しくて食べ応えあるし、ジューシーだ。
「莉亜、貸して?切り分けて上げるから。」
「うん。お願い。」
チラッと見ると、冷蔵庫の中を恍惚な眼差しで見ていたカミル。冷蔵庫の中は、燻製祭りだった。