第42章 農業生活 夏 九日目 R指定
「あれ・・・また、キスマーク付いてる。」
若干だけど、恒例のことだと思ってしまっている私。慣れとは恐ろしいものだ。
キッチンに行くと、リヒトの目の前に座る。朝から甘い微笑みは、さっきの延長だからか・・・。
「莉亜、今日も可愛いね。食べてしまいたいくらいだよ。」
いや、さっき食べたよね?って、余計な突っ込みはしないけど。
「ねぇ・・・リヒト。」
「ん?どうかした?」
蜂蜜色の瞳が、私に向けられる。その色気に血を吐きそう。
「ボ、ボタン・・・もう一つ閉めよう?女性のお客さんがリヒトの色香にやられそう。」
「莉亜が留めてくれる?」
リヒトに近付き、ボタンを留める。その間、ジッと私を見ている。そして、見なければいいのにリヒトの目を見てしまう。蕩けるような眼差しのリヒトに、今度は砂糖を吐いた。
「有難う。少しそのままジッとしてて?」
リヒトが体を屈めては、触れるだけのキスをした。そう・・・その麗しい瞳が開いたままで。
「ん、ご馳走様。莉亜の唇は甘いね。虜になるよ。」
「リヒトの方こそ・・・。」
条件反射の如く、頬が赤く染まっていく。その後のことは、余り覚えていない。気付いたら、私は温室に来ていた。今朝は、リヒトがとても甘い。
「くぅ~ッ、リヒトが素敵過ぎて辛い。」
果樹の下で、しゃがみ込んで悶える私。耳の奥で、朝のリヒトの甘い吐息がまだ聞こえている様だ。
「ひょっとして・・・私、死ぬの?幸せ過ぎて死ぬのかな。って、仕事しなくちゃ。そう、仕事。」
見上げれば、洋梨が鈴なりに実っている。
「いい匂い・・・。」
一個をもぎ取っては、匂いを嗅ぐ。
「莉亜?」
「ヒャッ!?り、リヒト?どうしたの?」
「うん、何となく莉亜の様子がいつもと違ってる様に思ったから気になって。」
そう言いながら、距離が近い。
「リヒト・・・。」
「どうかしたの?顔が赤いけど、ひょっとして熱中症?でも、そんな体温は・・・。って、莉亜?」
ガバッとリヒトに抱き付く。驚きつつも、抱きしめ返してくれる。
「莉亜?」
「リヒトが好き過ぎて辛い。」
「えっ?」
まさかの言葉に、リヒトは戸惑っている様子。ん?何か・・・リヒトの心拍数が早い?見上げれば、リヒトの顔が赤くなっていた。
「僕・・・死ぬかも。幸せ過ぎて死ぬかもしれない。」