第40章 農業生活 夏 七日目
今度は変わりにリヒトが作業場にやって来た。私はというと、大鍋をトレイに流し込んでいる最中。その力業?に、リヒトは慌てて大鍋を下ろさせた。
「想像はしていたけど、ちょっと考えようか。」
リヒトの言葉に、私は頭を傾ける。そして、リヒトが大鍋を持ち上げて、容器に注いでくれた。
「次から、せめてもう一回り小さめの鍋にしようね。」
「えっ?あ、小さめを二回ってこと?」
あれ?リヒトが固まった。何かおかしなことを言ったのだろうか?リヒトはトレイに全部注いでから、大鍋を流し台に置いた。
「莉亜。」
「ん?どうかしたの?」
「僕がいつも言っている程々って意味、正しく理解してないよね?次からは中鍋を一回でいいからね。」
何となく気迫に圧されて、頷いた私。
「お願いだから、無理しないでたまには体を休めて欲しい。莉亜は女の子なんだから。」
ここにきて、女の子扱いされた。
「うん、分かった。あ、お店の方は大丈夫なの?」
「今の時間帯は落ち着いてるから大丈夫だよ。僕が甘えていたのも悪かったんだよね。今は夏だし、倒れないか心配なんだ。」
そっか、普通に心配されてた。
「ありがとう、リヒト。じゃあ、この後は二階でゆっくり書類に目を通すね。」
「それは明日でもいい。夕飯の時間になったら僕が呼びに行くから、少し横になった方がいいよ。後片付けはやっておくから、ゆっくりしておいで。」
リヒトがそこまで気にしてくれたのは、住民で熱中症と疲労で倒れた人がいたとお客さんから聞いたからだった。そして、私はというと・・・ベッドで死んだように寝ていたらしい。
やっぱり、疲れていたのかもしれない。
どれほど眠っていたのだろうか。リヒトの声で目が覚めた。
ベッドに腰を下ろし、私を見ているリヒト。蜂蜜色の瞳が、少し心配そうに見える。
「どう?気分は。」
「うん、大丈夫。」
リヒトによって、抱き起され膝の上に乗せられた。
「お店は終わったの?」
「うん。カミルも帰ったよ。」
「随分寝ちゃってたんだね。」
時計を見れば、まだ七時を過ぎた頃。
「お店早く終わったの?」
「うん。莉亜が心配だったしね。お客さんも丁度切れたから早めに閉めたんだ。」
「リヒト・・・お腹減ったんだけど・・・。」
申し訳なさそうに言えば、リヒトは笑い、そして、触れるだけのキスをした。