第38章 農業生活　夏　五日目

私は何度も頷いた。有言実行されそうで、少し怖かった。

「うん、いい子だね。見回りは僕も一緒に行くから。」

「うん、お願い。」

見た目は淡泊そうに見えるのになぁ・・・。ううん、他の人にはかなり淡泊というか、興味も持たない。あ～、カッコイイなぁ。

テラスで食事していると、見知らぬ女性が現れた。シェリーに似た、美人だけど社交的な人柄に見える。

「久しぶり、リヒトくん。そちらが、リヒトの婚約者の莉亜さん？初めまして、アンリって言うの。久しぶりに村に戻ってきたんだけど、工芸の店にいるからよろしくね？」

「アンリさん、お久しぶりです。」

「は、初めまして。莉亜と申します。こちらこそ宜しくお願いします。」

アンリは人の好さそうな笑顔を浮かべては、リヒトを見てこう言った。

「ルドは浮気とかなかった？」

「ありませんよ。」

「そう。でも、あの小娘がちょっかいかけているわよね。」

小娘って・・・それに、色々と知っているみたいだ。でも、ルドのこと大事に思っているってこと？

「心配する必要なんてないでしょう？昔から、アンリさんにべた惚れだったんですから。それを知ってて、待たせた訳でしょうし。」

「ルドって優しいからね。言い寄られたら、無碍に出来ないでしょう。だけど、これからは私が傍で目を光らせるつもりだから。」

逞しい人だ。シェリーみたい。

「アンリさんなら心配ないですよ。」

「ええ、そうね。じゃあ、お店の方にも遊びに来てね。今日は挨拶だけに来ただけだから。じゃあ、またね。」

颯爽と帰って行ったアンリ。うん、パワーある人だった。

「リヒトと仲良かったの？」

「僕はルドさんのついでだよ。ルドさんが僕を気遣ってくれていたから。昔からああいう人だった。変わらないなぁ。」

「美人だね。」

ポツリと呟けば、リヒトは何の反応もなかった。いや、美人だったよ。興味あったらあったで悲しいけど、でも、何の反応もないのもどうかと思うんだけど。

「さぁ、片付けたら見回りに行こう。」

どうやら、リヒトの中では久しぶりの再会も、そう感慨深いものではなかったようだ。

ん？リヒトの顔が近い。あ・・・キスされてる。つまり、私は無意識にリヒトの顔を見詰めていたのだろう。私を見詰めるリヒトの目は、慈愛に満ちている様に見える。