第33章 農業生活三十日目 後編
「いいよ。一個ずつね。」
「ありがとうございます。」
額がテーブルにくっつきそうになるくらい、頭を下げるカミル。本当に礼儀正しくて優しい人だと思う。帰り際、本気で支払いをしようとして、焦ったのはご愛敬。
カミルを見送り、キッチンでリヒトが何かの書面に目を通していた。明日からの予定でも書いてあるのだろうか?
「リヒト、準備は万端なの?」
「うん。まぁ、色々遣りながらになるかな。」
リヒトの傍で、書類を覗き込む。
「これって・・・材料の使用明細?」
「そうだよ。幾ら、好きに使っていいって言われても、在庫が0になるのはダメだから。ちゃんと数字として、管理しようと思って。特に、これからの時期は、冷たいものが多く出るだろうからね。」
アイスとか?
「あ・・・蕨餅?大豆から黄粉は作れるし、暑い季節にいいよね。リヒトは何か欲しいものはないの?」
「欲しいもの?だったら、豆腐かな。」
「分かった。明日、作るよ。」
ゲームでは、あまり作る機会がなかった豆腐。数回くらいじゃなかろうか?大豆を機材に入れたら、豆腐として出て来るんだよね。何って便利な機材なんだろう。
「大豆って・・・。」
「売るくらい倉庫にあったよ。」
そう・・・売るくらいあるんだ。でも、収穫出来るまで日数が掛かる作物だったはず。冬に湯豆腐としても食べたいから、明日は大豆を蒔こう。
「ピザも始めようと思うから、チーズも幾らか欲しいかな。」
「ピザ!!いいよね、ピザ。頑張って働いて、美味しい野菜を収穫できるようにするからね。」
「程々にね?熱中症とかで倒れたりしない様にだよ。」
そっか、夏だもんね。熱中症って、やっぱりなるのかな?取り敢えず、気を付けよう。それに、夏野菜もいいけど、夏には果物だってたくさん直物としてあるよね。
「そうだ、松茸って捌けた感じなの?」
「ん?まだ、売るくらい冷蔵庫に入ってるけど?」
あぁ、そう・・・売るくらいあるんだ。冷蔵庫の数を増やしたけど、ひょっとして・・・収容量オーダーまでそう遠くない未来なのかも。
「出荷量・・・増やす?夏野菜って、春よりたくさん収穫出来るものが多いんだよね。」
「そうだね。その方がいいかも。」
リヒトが遠い目をして言っている。そんなに在庫量が多いんだね。ゲームの中でも、直ぐに収容量がいっぱいで入らなくなってたもんね。