第33章 農業生活三十日目 後編
「莉亜からのお誘いだ。素直に甘えればいいよ。」
「ありがとうございます。喜んでいただきます。」
うん、楽しみだよね?私も超楽しみだよ。単品としてなら、松茸ご飯は食べたことがあるけどフルコースなんて経験ないもん。
「ご馳走様。また、温室の方に行って来るね。」
嬉々として、温室に向かいまたしても収穫。今度は、梨だ。季節外れだけど、温室にはたくさん実っている。好きなんだよね~、梨って。そして、これも大きい。
味見したいけれど、ここは我慢。取り敢えず、何個か収穫して冷やしておこう。外の水場に収穫した梨を洗っていると、家から物凄く芳醇な匂いが漂ってきた。
松茸ご飯の匂いだ!!
「あ、莉亜。梨の収穫してたんだね。僕も手伝おうか?」
「ありがとう。でも、これで終わりだから。」
最後の一個を洗い終わって、籠へと入れる。それを、リヒトが持つよと言って持ち上げた。
「梨のいい香りがするね。二・三個冷やす?」
「うん、お願い。」
夕食の後に食べたいと言うと、了承してくれた。さぁ、松茸のフルコースだ!!カウンターには、人数分の夕食が準備されていた。カミルでさえ、浮足立っているのが見て取れる。
では、いただきますと言っては、小さな七輪の上で炙られていた松茸を口に入れる。三人揃って、甘い吐息が零れた。魂が抜けだしそうになった。
リヒトはニコニコして食べているし、カミルは何故か少し泣きそうになっていた。最後の晩餐的な気持ちにでもなったのだろうか?
続けてお吸い物に口を付ける。これも、何とも言えない吐息が零れた。心の洗濯と言うか、ほぉっとする。炊き込みご飯も、天婦羅も・・・大満足の夕飯だった。
食べ終わると、冷やした梨を切ってくれた。一齧りして、動きが止まった。何と言うことでしょう!!果汁が口の中で大発生した。
「んっ、止まらないっ。すっごく美味しい。」
「そうだね。あ、カミルはもう食べ終わったんだ。そんなに気に入った?」
「凄く甘くて美味しかったです。季節外れのこの時期に、まさかこんな美味しい梨を食べられるなんて思ってもみませんでした。莉亜さん、お願いします。一個、俺に売って下さい。」
カミルって、自分で食べるんじゃなくて、お祖母さんに食べさせてあげたいんだろうなぁ。その優しさにほっこりする。リヒトを見ると、微笑まれた。