第32章 農業生活三十日目 前編
少しして肩で息をしているローランが現れた。手には、さっきと同じ大きな袋を持っている。リヒトが私のこめかみにキスしてから、ローランの方へと受け取りに行った。
サッと袋から出しては、中身を確認している。私もリヒトたちに近付き、横から覗き込んだ。
「あ、可愛い~っ!!流石、シノンさん。」
リヒトとはお揃いの柄で、勿論、ちゃんとした水着だった。でも、リヒトはちょっとだけ考え込んでいる。
「リヒト・・・嫉妬深過ぎると、嫌われるぞ?さっきより面積は多いし、これを着た莉亜は、セクシーで可愛いと思うぞ。って、親を殺しそうな目を向けるな。怖ェだろうが。」
「ローランさん、一度死んでおきますか?」
目が怖い。これは、本気だ。ローランはまたしても、脱兎の如く逃げ帰ってしまった。
「リヒトの前でしか着ないから大丈夫だよ。」
「僕の前だけ?うん、そうだね。それならいいか。次の休みの時、一緒に川に行こうね。」
約束をしては、水着を大事に仕舞っておく。それにしても、あのふんどし・・・本当にローランが身に着けるのだろか?それも、真っ赤なふんどしを。凄い自信家だ。
それに、あの面積の少ない真っ赤なビキニ。ローランの奥さんも、自身家なんだろうか?
「私は無理だな・・・。」
「何が無理なの?」
「さっきの水着。」
リヒトの前だけでも、恥ずかしくて死ねる。
「そうだね・・・莉亜の胸は隠し切れないよね。泳がなくても零れそう。そんなことになったら、僕は正気でいられないと思う。見たヤツは、瞬殺で目潰しだな。」
本気で遣りそうで怖い。
「あ、お昼からも畑にいるね。作業が途中になっちゃったから。」
「じゃあ、お昼の準備まで僕と休憩しよう。」
手を引かれ、寝室へと連れられて行かれそうになったのを引き留める。休憩所では済まなくなりそうだ。
「リヒト、それは夜にって言ったよね?」
「・・・そうだったね。」
そんなしょんぼりしないで欲しい。一階のソファーに座り、私を膝の上に乗せるリヒト。・・・で、これは拒否した事による最大の報復なのか?
さっきから、キス三昧だ。顔や首筋や胸元まで、リヒトの熱くて柔らかい唇がさっきから触れ回っている。
この世界のキスマークは、三日目の朝には消える。そこが、現実と異なる事が幸い。リヒトは不満らしいけれど。