第32章 農業生活三十日目 前編
「ねぇ、初日のメニューは何にするの?」
「色々と遣ってみるつもりだよ。冷蔵庫には、たくさんの食材があるからね。本当に僕自身も楽しみだよ。」
リヒトは楽しそうに目を輝かせていた。確かに、ウチの冷蔵庫の在庫は充実していると思う。
「ただ、加工品は練習しないといけない。莉亜の味に近付ける様に。カミルにも、色々と学ばせようと思っているんだ。」
カミルはそれを聞いたら喜ぶと思う。本当にリトが好きだもんね。
「カミルくんの彼女ってどんな人?」
「ん?カミルの?女の子だよ。」
女の子・・・他の認識は?あ、女の子らしい女の子だと言いたいのかな?
「名前は?」
「う~ん、何だったかなぁ。忘れちゃった。」
淡泊過ぎだと思う。そんな人が、私には・・・。
その後も、質問したけれど、明確な返答は無かった。うん、よく分からなかった。
今日のランチはハンバーガーだ。小さいサイズの蒸かしたじゃがいもにチーズを掛けたり、生産者だからこその野菜サラダやピクルスを頬張った。
「莉亜、ちょっとこっち向いて。」
「えっ?」
リヒトを見上げると、口元を舐められた。
「ソースが付いてる。」
そう言っては、ニッコリと微笑まれる。
「あ、ありがとう。」
「サイズが大きいのかな。食べにくい?次はバンズを小さなサイズにした方がいいかな。」
気遣いの人だ。そういうところも好きなんだけど。リヒトの顔を見ていると、今度は唇が重ねられた。そう言えば、リヒトの顔を見ていたらキスして欲しいって思われるんだった。
そして、とびきり甘い微笑みを見せられるんだ。リヒトが尊い。
「どうしたの?そんなに僕を見詰めて。もっと、して欲しい?」
ちょっとだけ後悔・・・いや、反省。リヒトの執着を甘くみてた。遠目にカミルの姿に気付いて、慌てて残りを胃に収めた。
「もし、何かあったら遠慮なく僕に声を掛けていいからね?一人で何処かに行こうとしないで。分かった?」
「うん。敷地内にはいるから大丈夫だよ。」
カミルは、いつもの事かと何も言わない。それでも、リヒトの溺愛ぶりに、たまに温い目を向けられていたのだけど。
「はい、麦わら帽子。じゃあ、気を付けて。」
「ありがとう。行って来ます。」
そして、私は畑に向かって駆けだした。