第31章 農業生活二十九日目
「ねぇ、莉亜ちゃん。コーラルくんに宿題出したんだって?」
「えっ?宿題って、どうしてそれを・・・。」
「イルミナさんに聞いたの。コーラルくんはイルミナさんの甥だから、結構強く叱ったらしいわ。コーラルくんって普段は穏やかな性格らしいのだけど、ほら、この村の農家さんのことが上手くいかなくて、ちょっと息詰まってたみたいなの。」
流石、商売人。情報が早い。
「イルミナさん、何か言ってましたか?」
「フフ、驚いてたわ。」
シノンはリヒトを見た。気まずそうな顔をするリヒト。
「間違ってると思うなら、ハッキリ言えばいいの。同じ村の住人でしょう?だからと言って、絶対に許せとも思わない。いいのよ、たまには痛い目に合えば。」
楽しそうに笑うシノンに、私はホッとした。
「ただ、リヒトくん。あまり追い詰めないであげて?真面目過ぎて融通が利かない不器用な子だと思うの。仲良くしなさいなんて強要はしないけど、リヒトくんが追い詰める事にによって、莉亜ちゃんが嫌な思いをするのは本懐じゃないでしょう?」
「それは・・・はい。」
「でも、偉いとも思うわよ?大好きな女の子を守ろうとするその気持ちはね。莉亜ちゃんにはリヒトくんしかいないんだから、ちゃんと傍で守ってあげてね。」
面倒見のいいローランが慕う姉だ。この人もいい人だ。
「あ、シノンさん。お菓子どうぞ。」
「あらあら、まぁ!!マドレーヌじゃない。大好きなのよ。ありがとう。大切に頂くわね。」
シノンのお店を出て、幾つかのお店を回る。リヒトの口数が少ない。さっき言われたことを気にしているのだろうと思う。ポップコーンとドリンクを手にしては、目的地である原っぱへと来た。
初夏の風が吹く原っぱに、私たちは寝転んだ。リヒトも隣りで、空を仰いでいる。
「リヒト?」
「ん?」
「言われた通りにしなくてもいいんだよ?」
リヒトが驚いた顔を私に向けた。
「私はリヒトだけが大事。その部分を他人は否定するかもしれない。でも、私にとってリヒトは特別だから。だから、リヒトにも私は特別だって思って欲しいって言ったら我儘かな?」
「莉亜は、男前だなぁ。僕はこういう性格だから、どうしても極振りなんだよね。今後も嫌な思いをさせる時があるかもしれない。それでも、僕のままでいいの?」
「勿論。リヒトは私の嫌がることはしないんでしょ?」