第31章 農業生活二十九日目
いつだってリヒトが言ってくれる言葉だ。それに、リヒトに博愛主義者になって欲しくない。これは私の我儘だ。だって、誰にも取られたくない。私だけを見て欲しい。
「ありがとう、莉亜。」
「何処にも・・・行かないでね?」
「行くときは、莉亜も必ず連れて行く。」
リヒトの手が、私の手を包み込む。それだけで、安心するんだ。
「莉亜と一緒にいると、景色の全てがキラキラして見えるよ。僕一人じゃ、見られなかった景色だ。一度見てしまったら、もうあの頃の僕には戻れないし戻りたくない。だから、僕は何処に行くのも莉亜を連れて行くから。」
さて、コーラルはどうしているのやら。どんなプレゼンをしてくれるのか楽しみだ。家へと帰る中、絡めた指に目を向ける。この手を離したくない。そう切実に思う。
リヒトにも、少しは心を許している人はいる。だから、大丈夫。私も私が出来る範囲でリヒトを守る・・・って言ったら烏滸がましいかな。
夜は天婦羅を食べて、ワインも飲んだ。いい心持ちで、若干、足元がおぼついていない気がしないでもない。
「顔が赤いよ。大丈夫?」
「ねぇ、リヒト~。しちゃう?」
リヒトの目が見開き、私を見た。
「絶対、酔っぱらってるよね?あ、それとも内容が違う意味とか?」
「酔っぱらってる人は酔っぱらってないって言うんだっけ~?だから、私は酔っぱらってるって言う~。あれ~?じゃあ、どっちにしても酔っぱらってる事になるね~。」
「莉亜・・・安上りすぎじゃない?まだ、二杯目だよ。」
私はリヒトの腕を掴んで、寝室へと連れて行こうとする。
「リヒト~、しちゃお~。」
「り、莉亜、大丈夫?って、ちょっ!?」
戸惑うリヒトを連れて、寝室へと向かう。
「ヤなの~?」
「嫌な訳ないよ。」
「じゃあ~、脱ぐ~。」
その後、どうやら自分で素っ裸になって、リヒトも脱がせた後・・・眠ってしまったらしい。リヒトには、苦笑いとガッカリさせてしまったのは、言うまでもない。
可笑しいなぁ・・・そこまで、弱くなかったハズなんだけどなぁ。
そして、後日、知る事となる。赤ワインのアルコール度数が、上がっていることを・・・。