第31章 農業生活二十九日目
家の横にある水場で手を洗い、テラスへと向かう。辺りには、唐揚げのいい匂いが漂っている。今日は特に頑張ったから、お肉料理は嬉しい。
最初は向かい合って食べていたのに、今では当たり前に隣りに並んで食べている。随分、傍にいることに慣れた気がする。
「どうかしたの?」
「うん・・・リヒトがこうして傍に居てくれる事が、嬉しいなぁって思ってただけ。」
「僕も同じ気持ちだよ。だから、お店を始めても莉亜との時間は、ちゃんと作るから僕の傍に居てね。」
唐揚げを食べさせ合いながら、リヒトとの時間を堪能する。さて、昼食後はデート。その前に布地の選別だ。機織り機は一階に移動済み。同じ部屋にある棚に並べてある布地を見る。
今は、グラデーションや数種類を合わせた糸で織られた布地も作っている。何方も捨てがたいな~なんて思いながら、幾つか見繕う。リヒトはパステルカラーが似合うから、淡い色のグラデーションの布地にしてみよう。そして、定番の白は外せない。
「後は・・・エプロン用に黒だよね。」
急に背後からハグされ、手にしていた布地を覗き込むリヒト。
「黒?ひょっとして・・・エプロン?」
「うん。使ってくれる?」
「勿論だよ。一見、単色の黒に見えるけど、二色の黒なんだね?凄く綺麗だな。」
二色の黒という表現が正しいかは分からないけれど、漆黒と灰色に近い黒を掛け合わせたものだ。白いシャツに黒のカフェタイプのエプロン姿がよく似合うんだよね。
後、菫色のリヒトも見てみたい。因みに、私もパステルカラーが好きだ。レモンイエローや水色なども詰め合わせれば、そこそこの量になってしまった。鞄に何とか詰め込むと、リヒトの手が伸びてきた。
「僕が持つよ。さ、行こうか。」
「ありがとう、リヒト。」
手を繋いで仲良くお出掛けだ。あ、そうそう。お菓子も忘れない。少し汗ばむ季節になり、リヒトにも帽子を渡してみた。うん、イケメンは何をしても似合う。先ずは、シノンのお店だ。
「こんにちは~。」
「莉亜ちゃん、リヒトくん、いらっしゃい。夏服の依頼かしら?」
「はい。幾つかお願いしたいんですけど。」
布地をシオンに渡し、服の種類を決めていく。最後にオーダーしたのは、お揃いのパジャマ。ちょっと恥ずかしかったけれど、家の中だけならお揃いもいいかなと。シノンには、ニマニマされたけど。