第29章 農業生活二十七日目
リヒトは目を丸くしていたけれど、コーラルも目を丸くしていた。
「原稿用紙?」
「無理にとは言いません。」
「いや、書いてくる。失礼する。」
直ぐに帰って行ったコーラル。
「良かったの?原稿用紙だなんて・・・コーラルの得意分野でしょ。」
「書き出せば、よくわかるんじゃない?何がダメだったのか。得意分野なら、尚更でしょ?」
「認めさせて、次の対処を考えさせるつもりなんだね。他の農家でも、怒らせたみたいだし。」
あれを、他でもやったんだ・・・。ある意味、強者だな。
「許すの?」
「う~ん・・・内容によるかな。」
コーラルに反省文と言う名の、今の問題についての対処の仕方を考えて貰おうと思っている。建設的なことが得意そうなコーラルなら、何とかするだろうから。
「僕は許せないけど。」
「それはリヒトの自由だよ。私だって、許すなんてまだ思えないし。」
「・・・原稿用紙30枚くらい書いてくれば考えてもいいけど。」
30枚か・・・でも、コーラルなら書いてきそうだな。何か、問題提起して、現状把握して・・・プレゼンみたい。
「さ、ご飯食べよう。苺ソース、用意してあるよ。」
テラスで並んで、昼食タイム。リヒトの作るベシャメルソースは最高に美味しい。
穏やかな風に吹かれながら、そっとリヒトを見上げた。すると、決まって笑顔を見せてくれる。そのリヒトの視線に、絡め取られてしまうんだ。
「お昼から、何するの?」
「リヒトは、何か遣りたいことない?」
「莉亜と一緒にいられるなら何でも構わないよ。ただ・・・。」
リヒトが、じっと私を見る。何だろう?何言われるんだろう?
「莉亜と、デートしたい。」
「デート?うん、私もしたい。」
「店が始まったら、今の様に莉亜と時間を過ごせなくなるから。出来る限り、莉亜との時間を過ごしたい。店なんだけど・・・週に二日の休みにしようと思ってるんだ。莉亜とは家族になるから、もっと、莉亜と同じ時間を共有したい。莉亜の傍にいたいんだ。」
お店のことは、私にはよくわからないけど、リヒトがそう決めたなら何の異論もない。自身の体を休める為の休息の時間ではなく、私との時間を共有したいというリヒトの気持ちは嬉しい。
それに、休みは私が強く言わないと休まなさそうだから、余計にその方がいいかもしれない。