第28章 農業生活二十六日目
「肥料の補充?俺たちにこんな大変な作業をさせているのに、自分は肥料の補充だけなんてズルくないか?」
「コーラル、何様のつもりだ?」
「あ、いいよ。リヒト。」
そうか、そういうことか。確かに、そう思うのも無理ないか。
「じゃあ、帰っていいですよ。」
「本当のことを言われたから、逆切れか?」
「まさか。素人の勝手な基準で何を言われても、どうでもいいので気になりませんよ。」
コーラルの表情が、険しくなった。
「莉亜、ここのジャガイモ、可愛いんだよ。ほら、コロコロしてて。」
リヒトの中では、コーラルの事は終わったことになっている。コーラルは苛立ちを隠さないまま、帰って行った。その30分後、クベルがやって来た。
「こんにちは~っ。」
「クベル、珍しいね。訪ねて来るなんて。」
「聞きましたよ。コーラルさんのこと、追い出したんですか?」
リヒトが、冷やかな目でクベルを見詰めた。
「あ、責めに来たとかじゃないんで!!代わりに、俺に手伝わせて貰えないかなって。ほら、俺って体を動かすことが好きなんで。それに・・・収穫って、一番楽しい作業じゃないですか。」
「そうだね。僕もそう思うよ。」
すっかり、意気投合して和気あいあいと楽しんでいる二人を横目に見つつ、無意識に・・・そう、無意識に口にいれていた私。
「莉亜、美味しい?」
「えっ?あ・・・。」
「アハハハ!!無意識に齧ってるって、どれだけ野菜が好きなんだよ。」
盛大に笑われた。が、リヒトが笑顔のままクベルの口に突っ込んだ。
「んっ!?っ!!え、何コレ。すっごく美味しいんだけど。もう一個食べたい。」
「ダメ、もう終わり。」
そう言ったリヒトに、私たちは顔を見合わせて笑った。
「あ~、楽しかった。また、来ていい?」
「どうぞ。」
「クベル、お礼に昼食をご馳走するよ。」
リヒトがそう言えば、物凄く嬉しそうな顔をした。大きな犬みたいな人だ。愛嬌もあるし、優しい人だ。
「そう言えば、役場の手伝いどうだった?」
「あぁ、俺には無理だったみたいです。10分で追い返されました。向いて無かったんでしょうね。」
「何か、ごめん。」
クベルは顔を横に振った。
「リヒトさんが悪いのじゃないですよ。誰にも、得手不得手があるでしょうし。俺には、向いてなかっただけですから。」